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【伝統芸能】

<歌い踊る切手>歌舞伎発祥400年記念(2003年) 実は奥深い「土蜘」

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 「能は、眠くなる」と思う人は多いだろうが、誰も眠くならない曲もある。その代表が「土蜘(つちぐも)」だ。流儀によっては「土蜘蛛(つちぐも)」と書く。

 僧に化けた土蜘の精が、病床の豪傑・源頼光を襲って消えるが、差し向けられた家来に討ち取られる、という筋だ。

 家来たちが、山中にある土蜘の塚を襲う大詰め。土蜘は、次々と糸を繰り出して反撃する。その華やかさが、誰でも楽しめる理由の一つだ。かつては、今のように糸を次々と繰り出す演出は、金剛流のお家芸だったが、これがウケたため他流にも広がった。

 では、この「土蜘」とは何者なのだろうか。

 古代日本、大和朝廷が全国統一する過程で、強い勢力を持っていた各地の豪族は激しく抵抗した。

 このような豪族を大和朝廷の視点から「土蜘」や「鬼」と呼ぶようになったのだ。おとぎ話の「桃太郎」の中に登場する敵役の鬼も、吉備国(きびのくに)(岡山県)に土着していた豪族が、その正体だ。

 しかし視点を変えると、華やかさの陰に、土蜘の怒りや悲しみが見えてくる。実は、奥の深い曲なのだ。

歌舞伎の元となった能「土蜘蛛」。観世流・観世喜正=神田佳明撮影

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 明治時代、近代化の流れの中で歌舞伎は、「高尚優美」を旗印に「娯楽」から「芸術」への脱皮を図ろうとした。

 能は、公家や大名に愛され、「芸術」と見なされていた。その背を追うように、筋を能から取り入れ、鏡板を模した「松羽目(まつばめ)」を背景に演じる「松羽目物」と言われる新演目が生み出された。「土蜘」も、その一つだ。

 二〇〇三年、「歌舞伎発祥四百年」として、古典演目の「暫(しばらく)」と合わせ、切手となった。 (横浜能楽堂館長・中村雅之)

 

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