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【伝統芸能】

<序破急トーク 二十代宗家・宝生和英> 能の「家元」どんな仕事?

 今回よりエッセーを書かせていただきます宝生和英(かずふさ)と申します。二〇〇八年から宝生流の宗家をつとめ、流儀内では「家元」と呼ばれています。さて、皆さんは「家元」って聞くと、何を連想しますか?

 百人以上の能楽師を率いる宝生流の家に生まれ育ったので「英才教育がすごいの?」「日頃、何を食べてるの?」とか言われました。時代劇のように「お膳で食事しているの?」とも聞かれました。実際は一般的な暮らしをしています。

 では、家元の仕事とは?と問われれば、その時代の家元の考え方にもよるので決まりはありません。芸の伝承や普及は重要ですが、その中で大事なことは「人を見ること」だと思っています。能楽師やスタッフ、観客、さらには一般の社会人を観察して、イノベーション(新機軸)や流儀の長所や短所を考えたりしています。そうすることで、家元に必要なことも見えてくるものです。

 でも、もっと大切なことは「己を知る」こと。他人が考える家元像はあくまでその人の理想。家元になって最初の仕事は「自分が今なすべきことは何か」を見極めることです。そして、自分の性格や芸の特徴に見合った家元像をつくり出していく。これも大切な仕事なのです。

 例えば、マネジメントが得意ならばプロデューサータイプ、教えることに優れていれば指導者タイプ、素晴らしい芸を舞台で披露できるのならば演者タイプ、はたまた研究者タイプ…、さまざまな家元があっていいと思います。自分の得手不得手を知り、現在の流儀に必要なことは何かを知る。簡単そうで一番難しいことかもしれません。

 自分でこのタイプと決めたつもりなのに、周囲が求める家元像に近づこうとしすぎて、己のキャパシティー以上のことを詰め込み、全てが中途半端になってしまうかもしれません。そんな時でも恐れずに人をよく見ていきたい。それが己を知ることにつながると考えています。

 こうして書いてみると、家元とは正体の分からないものかもしれません。能でいえば、猿の頭、タヌキの胴体、蛇の尾などを持つ妖怪が現れる曲目「鵺(ぬえ)」のような…。それでも、歌舞伎の「勧進帳」の基になった「安宅(あたか)」に出てくる弁慶のように機転をきかせて、窮地や難局も切り抜けられる人でありたい。そんな家元像を描きつつ、エッセーでは能楽界の素顔をお伝えしていきます。 (能楽宝生流二十代宗家)

      ◇

 能の脚本構成の理念でもある「序破急」。能楽界の名門宝生流を率いる宝生和英(32)が能の世界に生きる思いや魅力を、緩急の妙を織り交ぜながら若い感性でつづります。 (随時掲載)

<ほうしょう・かずふさ> 1986年1月、東京生まれ。東京芸術大学卒業。十九代宗家の父、宝生英照(ふさてる)に師事。91年、能「西王母」で初舞台。2008年、二十代宗家を継承。伝統的な能公演に重きを置く一方、復曲や異分野との競演にも力を入れる。海外との懸け橋となるマネジメント業にも熱心で、イタリアや香港との文化交流事業にも取り組んでいる。

 

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