東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 伝統芸能一覧 > 記事

ここから本文

【伝統芸能】

<序破急トーク>2種類の「感動」 刺激続くと疲労感 謡で心に落ち着き

 サッカーワールドカップ(W杯)日本代表の奮闘を、仕事で滞在していたイタリア・ミラノのトラットリア(レストラン)で見ていました。選手の一生懸命戦う姿に、大きな感動をもらいました。

 前回、伝統芸能には歌舞伎のように驚きや感情を揺り動かすエンターテインメント性の高いタイプと、能楽のように日常生活に溶け込み心を静めるタイプの二種類があると書きました。今回は「感動」を引き合いにしながら、その効能を考えたいと思います。

 感動と聞くと「全米が泣いた!感動大作」などとうたった映画のフレーズのように、感情を大きく動かす作品こそ最上、とイメージする方も多いのではないでしょうか。シンプルで強いメッセージを他者と共有すること、これこそがエンタメの魅力であり多くの人を引き付けるのだと考えられます。

 ただ、これはリスクも伴います。例えば、パーティーが終わってゲストが皆帰ってしまうと、そこには楽しかった記憶だけでなく、一抹の寂しさが残ります。「興奮から寂しさ」という感情の振り幅が大きくなり、それが繰り返されると、心身の不調や頭痛、血行不良を起こすと東洋医学でも指摘されています。さらに、作品に感情移入しすぎると、心理的疲労感が大きくなります。悪役や敵役に対し、怒りや憎悪などの感情を抱くことがありますが、それが強すぎても調子を崩してしまうのです。

 最近の風潮で一番恐ろしいのは、感動や驚きがないコンテンツ(作品)に対して排他的になること。一瞬で面白く楽しめる方が手っ取り早い。でもこれでは、文化の多様性が失われてしまうと危惧しています。

 これに対し、能楽はもともと日常の延長にあります。精神を落ち着かせ、いい発想を生み、ゆとりをもたらします。「土蜘(つちぐも)」みたいに驚きに特化した曲もありますが、じっくり味わい感動する曲が多いです。

 刺激より安定を求める年代(科学的に三十代と言われています)になると、能楽堂で鑑賞することは自分に必要なものを探すことであり、心身を整えるために有効なことでもあると思っています。鑑賞だけでなく、謡(うたい)の詞章を自分で声に出すことはすごく体にいい。謡のリズムは心拍数とも関係があるのです。

 感動や効能のことは、食事に例えることもできます。大きな感情の動きがある「エンタメ」は、ファストフードのように濃くはっきりした味。強く印象に残りますが、そればかりでは体によくない。対して能楽は家庭料理。健康を考えた素材や味付けです。能楽のような芸能を楽しむことで、エンタメに疲れてしまった人もうまくバランスを取ることができると思います。 (宝生流第二十代宗家・宝生和英)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報