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【伝統芸能】

<評>秀山祭九月大歌舞伎 哀感と諦念の「俊寛」

 歌舞伎座は初代中村吉右衛門をしのぶ秀山祭。当代吉右衛門が極め付きの当たり役を昼夜に演じる。

 昼の部「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな) 河内山(こうちやま)」は、短い場面ながら「質見世」が抜群に面白い。中村魁春の後家(ごけ)おまきの締まったせりふ回しで、愛娘(まなむすめ)が奉公先の大名屋敷で命の瀬戸際にあるという緊迫した状況がよく伝わる。それを煙草(たばこ)を吸いながら聞いている吉右衛門の河内山のたっぷりとした愛嬌(あいきょう)と、時折のぞく悪党らしいスキのなさ。中村歌六の和泉屋清兵衛にも貫禄があり、黙阿弥の世話物らしい味わいがたっぷりの場面になった。

 夜の部は「平家女護島 俊寛」。孤島にただ一人残る吉右衛門の俊寛は、怒濤(どとう)のような悲壮というよりも、人間の運命に対する静かでしみ入るような哀感と諦念を感じさせた。中村又五郎の瀬尾が闊達(かったつ)明快で大当たり。歌六の丹左衛門、中村雀右衛門の千鳥、尾上菊之助の成経、中村錦之助の康頼とそろって、こまやかな情の通い合いと、それゆえの別れの痛切さが胸に迫る。

 昼の「祇園祭礼信仰記 金閣寺」では、病気療養中の中村福助が慶寿院を演じ、五年ぶりに舞台復帰したのが大きな話題。凜(りん)とした姿、張りのある声に場内割れんばかりの拍手が鳴りやまず。一層の回復を祈りたい。中村児太郎が大役の雪姫を精いっぱいにつとめ、中村梅玉の東吉が端正で爽やか。尾上松緑の大膳、松本幸四郎の直信、坂東弥十郎の軍平、坂東亀蔵の鬼藤太。

 他に昼の部は幸四郎の鬼女、錦之助の維茂で「鬼揃紅葉狩(おにぞろいもみじがり)」。夜の部は幸四郎の「松寿操(まつのことぶきあやつ)り三番叟(さんばそう)」、和太鼓による坂東玉三郎の新作舞踊「幽玄」。二十六日まで。

 (矢内賢二=歌舞伎研究家)

 

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