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【至上の印象派展 ビュールレ・コレクション】

本紙3部長 私のお気に入り

 東京・六本木の国立新美術館で開催中の「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」(東京新聞など主催)には、印象派の傑作がそろう。美術初心者の本紙の3部長が、お気に入りの作品を語る。

◆数奇な運命にひかれ

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」 1880年 油彩、キャンバス

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 ルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛(かわい)いイレーヌ)」は、贅沢(ぜいたく)に楽しめる作品だ。

 「この髪と、瞳がいいんだ」。会場で初老の男性が奥さんらしい女性に語りかけていた。印象派独特の流れるような筆遣いで描かれた青いドレスと豊かな髪、対照的に緻密なタッチの透き通る白い肌と青い瞳。男性の感想に心の中でうなずいた。

 名画の楽しみ方は人それぞれと思う。絵を生み出した画家の人生や、過ごした時代を深く知ることは美術館に足を運ぶ醍醐味(だいごみ)。過去にその絵を目にした時、傍らにいた、あの人のことを思い出すかもしれない。

 作品がたどった運命には一段と心ひかれる。ユダヤ人銀行家の長女だったイレーヌ。その娘はナチスに捕らえられ、収容所に送られる途中で死ぬ。絵はナチス将校の手に落ちた。一度はイレーヌの手元に戻るが、なぜか売りに出されることになった。謎解きもまた、時を忘れさせてくれる。(外報部長・久留信一)

◆収集家に思いをはせ

クロード・モネ 「睡蓮の池、緑の反映」 1920−26年 油彩、キャンバス

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 モネの「睡蓮(すいれん)」を初めて見たのは高校生のとき。上野の国立西洋美術館の常設展だった。スケールの大きさと透明感に圧倒されたのを覚えている。

 睡蓮はモネが自宅の池を描いた作品。水面が天候や時間帯によって表情を変えるため関心が尽きず、二百点以上も描いたとされる。

 上野の睡蓮は松方コレクションの一つ。明治時代に首相を務め、日本銀行を設立した松方正義の三男で、川崎造船所(川崎重工業の前身)の初代社長、幸次郎が収集した。睡蓮はパリ郊外のモネ邸で本人から直接購入したと伝えられる。

 ビュールレ・コレクションはスイスの実業家、エミール・ビュールレが集めた作品群。ビュールレも睡蓮を三点購入しているが、二点はチューリヒ美術館に寄贈し、もう一つの「睡蓮の池、緑の反映」が今回の展覧会に出品され、人気を集めている。上野より大きく、迫力があり、水面の緑色が印象的だ。

 ビュールレは松方より二十五歳若いが、二人とも二つの大戦の時代を生きた。どんな思いで睡蓮を手に入れ、後世に残したのか。収集家に思いをはせながら、鑑賞するのもおもしろいかもしれない。 (政治部長・清水孝幸)

◆絵のバランスに酔う

ポール・セザンヌ「赤いチョッキの少年」 1888−90年 油彩、キャンバス

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 自分の部屋に飾るなら、この一枚がほしい。美術展でよく妄想する。

 至上の印象派展では、この「赤いチョッキの少年」。セザンヌが描いた。教科書にも載る有名な作品だが本物はひと味違った。印刷では分からなかった色彩や絵の具の厚み。画面の構成にはリズムを感じる。毎日、見ていたいな。部屋で、お酒でも飲みながら。

 赤いチョッキに目をつけた者がほかにもいたと知った。二〇〇八年、武装した三人組がこの絵をスイスで美術館から盗んだ。作品の価値は当時で百億円とも。警察が追いかけ、一二年、東欧セルビアで容疑者の自動車のドア内部から絵を見つけた。無事だった。闇の美術愛好家にでも売るつもりだったのか。お金目的の犯行には、もはや怪盗ルパンのロマンはない。

 もう一度、絵を見てみよう。画面中央に伸びた少年の右腕が構図の中心だ。顔や左手は極端に小さい。ゆがんだ人物や空間に、絵画にしか成し得ないバランスを感じて酔い心地になる。 (経済部長・松井学)

 作品はいずれも (c)Foundation E.G. Buhrle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK−ISEA, Zurich (J.−P. Kuhn) 

      ◇

 *「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」は5月7日まで。毎週火曜は休館(5月1日は除く)。開館時間は午前10時〜午後6時(毎週金・土曜、4月28日〜5月6日は午後8時まで)。

 

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