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【シャガール 三次元の世界】

<池上先生の絵ほどき>シャガール ユダヤと三次元の巻 周囲の影響で彫刻へ

 一九一二年、マルク・シャガールはパリのモンパルナス地区に移り住んだ。彼があらたに住居兼アトリエとした建物は「ラ・リューシュ(蜂の巣)」と呼ばれ、エッフェル塔で有名なギュスターヴ・エッフェルが設計した、円筒形をした三階建ての巨大な建物である。内部に百以上あるアトリエには、若きアメデオ・モディリアーニやジュール・パスキンらがいた。モンマルトル地区にあった「洗濯船」とともに、後に二十世紀前半を代表する芸術家たちが多く集ったこの場所は、まるで日本の「トキワ荘」のようだ。

 彼らには共通点があった。現在のベラルーシの出身であるシャガールやイタリア人のモディリアーニのように、諸外国からやってきた彼らの多くはフランス語が堪能ではなく、家賃が低い集合アトリエで助け合いながら、ゆるやかなコミュニティーを形成していた。

 ユダヤ人比率が高いことも特徴のひとつなのだが、パスキンが本名のピンカスの綴(つづ)りをわざわざ変えて名乗り、またキスリングが預言者モーセを意味するファーストネームのモイーズをまったく用いなかったように、彼らは自分たちの民族的血統に複雑な思いを抱いていた。

 幻想的な作風で、愛をテーマとする作品を多く手掛け、「愛の画家」と呼ばれたシャガールには、他にもふたつの注目すべき点がある。それが「ユダヤ」と「三次元」である。彼は自らの民族性を探求するように、旧約聖書から多くの着想を得ている。また、「蜂の巣」で彼が交流を持ったモディリアーニやブランクーシ、レジェらはみな、ピカソらによるキュビスムの風が吹きあれるパリで、彫刻や絵画であらたな立体表現を模索していた。シャガールが彫刻を表現ツールのひとつとしたのも当然のことなのだ。

 「シャガール 三次元の世界」は、日本で初めて本格的にシャガールの立体作品を紹介する展覧会である。彼のユダヤ性と、立体表現における試行錯誤を見ることのできる、またとない機会となるだろう。

 (池上英洋=美術史家、東京造形大教授)

 *「シャガール 三次元の世界」展は東京ステーションギャラリー(東京都千代田区)で開催中。12月3日まで。

 

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