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【09総選挙 埼玉ニュース】

<争点の現場から>憲法 失われた審判の機会

2009年8月3日

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 米軍が迫り、防空壕(ごう)に追い詰められた家族。「ぼく、小刀持っているよ」。小さな息子から渡された刃物で、父親は次々に家族全員の首を切って最後に自決した。その血潮は赤い照明となって舞台を染める。集団自決の物語を回想する女子高生の独白が響き渡った−。

 所沢市上安松に住む小林善亮(よしあき)弁護士(34)は、憲法をテーマにした市民ミュージカルを企画している。舞台に立つのは二十、三十代の若者が中心。二〇〇七年五月に町田市など都内四カ所で行った公演は、沖縄戦を題材とした。ふだん憲法に触れる機会が少ない若い世代に、憲法の中身を考えてもらう狙いだ。

 沖縄戦の舞台の合宿中には、元ひめゆり学徒隊の女性を招いて体験談を聞いた。出演者の高校一年女子は当時、「(個人の尊重など)空気のように当たり前で普段、気付かない憲法が守ってくれることがあるからこそ、自分が自分らしく生きられることが分かった」と話したという。

 「憲法の中身を知らない若者は多い。だが、彼らも機会さえあれば、真正面から憲法に向き合うセンスと力を持っている」と、小林さんは言う。

 国民が衆院議員を選べなかったこの四年間、国会では自衛隊の海外活動を本格化させたイラク特措法、憲法改正へ扉を開く国民投票法などが相次いで成立した。いずれも国民の信を問うには十分なテーマ。だが、政権は首相をすげ替えるだけで、国民が審判を下す機会は失われ続けた。

 「憲法にかかわる施策が推し進められた構造改革の陰で、市民生活を軽視する政策が進んだ」と小林さん。憲法は「国のかたち」を示す基本法。「今回の選挙で、各党はあるべき社会像を争点として提示すべきだ」と強調する。

 だが、出そろったマニフェスト(政権公約)を、小林さんは「どれも二〇〇七年の参院選時を踏襲した程度」で不十分とみる。憲法改正を前面に掲げた安倍晋三首相があえなく退陣して以来、憲法問題が語られることは少ない。だが「(格差社会が広がり)国民の幸福追求権や生存権が脅かされている今こそ、各党は何が国民の幸福と考え、どんな社会を目指すのかを明記し、議論を起こすべきだ」と訴える。

 集団自決を演じることで、若者たちは、当時の人たちの痛みに思いをはせる。この想像力が、現代社会で弱い立場に追いやられた人たちの痛みへの共感につながる、と小林さんは考えている。

 手当支給や授業料の無料化など、盛大なばらまきで子育て世代の歓心を買おうと躍起の選挙戦。小林さんは言う。「国民の痛みに気付かないような政治は、国民から見放されるのは明らかだ」 (山内悠記子)

 

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