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【言わねばならないこと】

(39)恨み買い 民も戦火に 俳優・宝田明氏

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 集団的自衛権を行使して、わざわざ外国に出かけて米軍の軍事行動に協力し、相手の恨みを買う必要はない。確かに国家は丸裸でいるわけにはいかないが、防衛に徹するべきだ。

 こちらが聖戦だと言っても相手も聖戦だと思っている。戦争は戦闘員だけの戦いではなく、無辜(むこ)の民を戦火に巻き込んでしまう。

 小学五年のとき、旧満州(中国東北部)のハルビンで終戦を迎えた。旧ソ連軍が侵攻してきて関東軍は武装解除。民間人は無政府状態の中に放り込まれた。自宅に押し入ったソ連兵に頭に銃を突きつけられた恐怖や、同じ社宅の奥さんが暴行されるのを目撃した嫌悪感は絶対に忘れられない。

 ソ連兵に短機関銃で右腹を撃たれ、元軍医が焼いて消毒した裁ちばさみで傷口を切り開き、弾を取り出してくれた。麻酔もなく、痛みのあまり握り締めたベッドの柵が曲がった。戦後、ロシアの素晴らしい映画やバレエを見ても、吐き気を催すほど許せない気持ちが湧き起こる。

 傷つけられた相手への恨みは一生消えない。私は助かったが、愛する家族や友人を殺された人の恨みはもっと深い。逆に、自分が傷つければ相手の恨みが残る。「やった」「やられた」が繰り返されていく。戦争とはそういうものだ。

 昨年の衆院選の公示翌日、NHKの情報番組に生出演した際、発言をアナウンサーにさえぎられてしまった。戦争は絶対にしてはならず、国家が間違った選択をしないよう国民は選挙で意思表示すべきだ、と話す途中だった。さえぎられた真意は分からないが、戦前のように、言いたいことが言えない暗い世の中に戻してはいけない。

<たからだ・あきら> 1934年生まれ。主な出演映画は「ゴジラ」「放浪記」「ミンボーの女」など。舞台「ファンタスティックス」で芸術祭大衆芸能部門大賞。

 

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