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【言わねばならないこと】

(43)萎縮招かない社会に 作家・森絵都氏

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 福島の原発事故で避難が始まってから、たくさんの高齢者の方が亡くなった。原発から二十キロ圏内の立ち入りが規制され、多くのペットが取り残された。日本が、こんなにも弱者を切り捨ててしまう社会なんだと、あらためて実感した。

 事故から二カ月後、二十キロ圏内に取り残されたペットを救出する活動に同行した。自分の体をかけて犬や猫を守る女性たちを追いかけるほどに、その姿を記録したい思いが強まった。

 将来、原発の近くで何か政府に都合の悪いことが起きたら、それを隠すために特定秘密保護法が利用されるかもしれない。私は何か調べるときには現場に行き、自分で見て、人に会って話を聞く。非常時だからこそ、自分の体を張って伝えなければならないことがある。だが、秘密保護法は取材対象にも罰則が及ぶので取材者の萎縮を招いてしまう。

 昨年来、秘密保護法廃止を求める発言をし始めてから、仕事先の人たちに「勇気がありますね」「大丈夫ですか」などと言われた。先進国では市民が政治について意見を言うのはごく当然なのに、日本では発言しない人が多いからだろう。

 政治のことを難しく、賢く、分かり抜いたうえで語らなくてもいい。間違えたことを言っても、拙くても、本当に自分たちが日常レベルで感じたり、疑問に思ったりすることをカジュアルな雰囲気の中で気軽に発言していくことが大事かなと思う。

 そうして、私たちの心の中にある萎縮を取り除いていくことが、この社会に新しい風を吹かせて、政府からの締め付けにあらがっていくための一つの方法になるのではないか。

 <もり・えと> 1968年生まれ。90年に「リズム」で講談社児童文学新人賞を受賞。「風に舞いあがるビニールシート」で直木賞。他の著書に「DIVE!!」など。

 

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