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【言わねばならないこと】

(56)確実に自粛の空気 女性史研究家・江刺昭子氏

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 戦時中に各地であった思想弾圧事件では、女性たちも摘発された。最大の言論弾圧「横浜事件」の少し前には、横浜で文学サークル「浪曼(ろまん)」の同人二十一人が摘発された。「文学を装った共産主義活動」とされたが、機関誌に小説や短歌を寄せていたのは、文学好きの普通の若者たち。女性も大勢いた。

 女性解放史の研究で知られる井手文子さん(一九二〇〜九九年)は一九四二年四月、東京・神田で羽仁五郎の世界文化史講座を聴講。受講者同士で語らいの場を持ったところ、約二年後、突然、自宅に踏み込んだ特高警察に治安維持法違反の疑いで拘束された。講座は今でいうカルチャーセンター。井手さんは「本当にどうってことない会だったのよ」と語っていた。

 歴史を学んだり同人誌を作ったりするごく当たり前の営みが罪に問われる−。昨年十二月に施行された特定秘密保護法により、同じことが起こり得るのではないかと懸念している。

 安全保障関連法の前に、秘密保護法をつくった政府は巧妙だ。すでに、十年、二十年前にはなかった自粛の空気が確実にあると感じる。地方自治体の講座なども無難なものばかりになり、社会主義運動とか女性史とか私が取り組んできたテーマの講座は、企画すらされなくなっている。

 菅義偉(すがよしひで)官房長官が「子どもを産んで国に貢献してほしい」という趣旨の発言をしたのは、まさに戦時中の発想だ。個人より国家を優先する考え方。井手さんは「“私は”こう思いますのよ」という話し方をした。私たちは政治に対し、自分で考えて判断する、という姿勢を持つことが大切だと思う。

<えさし・あきこ> 1942年生まれ。原爆作家大田洋子の評伝「草饐(くさずえ)」で田村俊子賞。著書に「樺美智子 聖少女伝説」など。

 

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