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【言わねばならないこと】

(60)迫る危機に気付いて 中東現代史家・栗田禎子氏

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 パリの同時多発テロは、中東の問題と思われていた危機が欧州内部に持ち込まれ、内在化されてしまっていることを示した。世界中の危機が連関しつつある。いつ、どこで戦争が起きてもおかしくないと、誰もが実感しているのではないか。

 恐ろしいことに日本はこのタイミングで、戦後七十年、守ってきた平和憲法を形骸化させ、立憲主義や民主主義に反する形で、安全保障関連法を成立させた。米国と欧州連合(EU)、オーストラリアが軍事介入を手伝い合う「集団的帝国主義」に、進んで関わっていこうとしているとしか思えない。

 現在の中東の混乱は、多分に先進諸国の関与によって引き起こされた。シリアで独裁政権への民主化要求が内戦化した背景には、欧米の関与がある。反欧米のアサド政権に対抗して、イスラム主義勢力の成長を黙認したからだ。

 過激派組織「イスラム国」(IS)はアメリカ主導のイラク戦争、占領がもたらした矛盾の落とし子でもある。パリの罪のない市民は全くの犠牲者だが、先進諸国の政府の責任は冷静に判断する必要がある。

 それどころか、パリの事件を契機に競ってシリアへの空爆を本格化する姿勢は「懲りない」と言わざるを得ない。シリアへの介入を一気に加速化させるために利用しているようにさえ見える。

 「わが国の存立が脅かされる」ときに、他国を武力で守る集団的自衛権の行使を認める安保法について、安倍晋三首相は当初、中東ホルムズ海峡での戦時の機雷掃海を代表例に挙げた。

 今後、ISの暗躍がさらに深刻化した場合、この法律は日本の軍事介入を可能にするだろう。国民は危険が差し迫っていることに気づいてほしい。

 <くりた・よしこ> 1960年、東京都生まれ。千葉大文学部教授。著書に「中東革命のゆくえ」など。日本中東学会の前会長。

 

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