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【言わねばならないこと】

(107)国による誘導 しっかり監視 舞台美術家・妹尾河童さん

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 戦争はある日突然、始まるんじゃない。土砂崩れの前に小石がパラパラ…と転がるような兆しがある。安全保障関連法に続いて改憲の流れになり、今は地滑りが始まっていると思う。

 二十年前、記憶の風化という危機感から「少年H」を書いた。あの時代の大人たちは戦争に加担したという気持ちがどこかにあって、戦前を語らない。鬼畜米英、聖戦に勝つって言ってるうちにエーッと思うくらい空襲があって敗色が濃くなり、でも、疑問が口に出せなくなっていく。その恐ろしさを伝えたかった。だから、のんきに遊んでいた少年の暮らしにどのように戦争が近づき、巻き込まれていったかを書いた。

 戦争中は「お国のために」と言ってた教師が、戦後「これからはデモクラシー」と言い始めた。戦争万歳を叫んでいた人々が「アカ」とか「危険分子」と呼んでいた共産党の指導者、野坂参三氏の集会でワーって拍手していた。同じ大人たちがですよ。国民が簡単に誘導される。それが怖い。

 戦争放棄を宣言したから日本は七十二年間、外敵から攻撃されなかったが、自民党の憲法草案はドンパチも許されるものにすり替わった。それなのに、自民党が昨年の衆院選で勝ったのは、みんなが自分の生活の安定を優先したから。戦後、あれだけ戦争はこりごりだと思ったのに、直後の衆院選で翼賛体制を推進した連中が勝ったのと似ている。

 政治家は百年の計を持ってほしい。土砂崩れの起きない山をつくるには、時間をかけて樹(き)を植えないと。国民も目先の餌をうのみにしないで、国がどの方向に誘導しようとしているか、監視すべき。五十年先を考えて選択しないと、日本は滅びます。

<せのお・かっぱ> 1930年、神戸市生まれ。舞台やテレビ美術のほか、エッセー「河童が覗(のぞ)いた」シリーズなどでも知られる。少年の視点で太平洋戦争を描いた自伝的小説「少年H」は映画化された。

 

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