東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 記者たちの戦後経済秘史 > 記者たちの戦後経済秘史記事一覧 > 記事

ここから本文

【記者たちの戦後経済秘史】

輝きが秘める金箔哀史 石井真暁(北陸経済部)

戦時中も使われたとみられる箔打ちの機械=1950年ごろ撮影(金沢市の金箔メーカー「カタニ産業」提供)

写真

戦時中の金沢の金箔(きんぱく)産業を取材したが、当時の様子を伝える資料の少なさに悩み続けた。金箔に関するさまざまな書籍を探したが、戦時中についての記載はあっても数ページのみ。当時、金箔の製造や販売が制限されていたために、残りにくかったのだろうか。関連企業や箔職人を回る日々が続いたが、写真すら見つからなかった。

そんな中、箔職人の家系に生まれ、自身も戦後に父を継いだ安江一(くに)さんの証言は、非常に貴重だった。職人たちが金の代わりにアルミを打ったことや、警察が厳しく金製品を取り締まったこと―。父の傍らで苦労を見てきた安江さんの証言により、それまでに集めた情報が肉付けされただけでなく、書籍には書かれていなかった当時の職人たちの思いや生活が具体的に浮かび上がってきた。

それまで箔一本でやってきた職人たちの仕事が社会から拒絶されるようになったとき、彼らの落胆はどれほどだったのだろう―。安江さんの話を聞きながら、当時の職人たちに思いを巡らせた。

「仕事がなくなったときは、切なかったと思う」。安江さんは軍需工場に勤めながらも、箔を打った父を思いやる。戦争は伝統産業のともしびをかき消そうとした。それは技術の伝承を難しくするだけでなく、職人たちの誇りも失わせてしまうのではないか。

石川県出身の記者にとって子供のころから慣れ親しんできた金箔産業にも、つらい歴史が眠っていた。金箔が放つ輝きは、戦時中の苦労を乗り切った職人たちの努力の上に成り立っている。「当時の経済統制はすごかった。なぜあんなふうになってしまったのかー」。やるせない様子で話す安江さんが忘れられない。

 

この記事を印刷する

PR情報



ピックアップ
Recommended by