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【記者たちの戦後経済秘史】

「戦うのか」…知識人の苦悩 今村節(名古屋経済部)

発見された機密報告書「英米合作経済抗戦力調査(其二)」=東京都文京区で

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これが陸軍情報機関の機密報告書か。黄ばんだ表紙に「極秘」と記された文書は、思ったより軽く小さかった。しかし、この「英米合作経済抗戦力調査(其二)」は、連載で私が担当したテーマのうち、最も重たい仕事となった。

内容は濃密だった。当時第一級の経済学者たちが、専門知識をフル活用して、米英の戦力を緻密に分析したものだから、当たり前だ。端的な文章と数字の羅列をどう読み解き、伝えればいいのか。私は頭を抱え、担当デスクに「締め切りに間に合うかどうか…」とこぼした。当然、泣き言は無視された。

東大の原朗名誉教授と、報告書を発見した摂南大の牧野邦昭准教授に、何度も解説をお願いした。報告書の背景を理解し、歴史の中でどう位置付ければいいかつかむために、軍の記録や統計などを調べ歩いた。読むべき資料は数多く、締め切りは非情に迫ってきた。

取材を進め、当時の日本と米国との圧倒的な戦力差に驚いた。日米開戦前、秋丸機関だけでなく、学者ら有識者たちが「戦争しても負ける」と明確に、あるいは遠回しに、何度も指摘していたことには、がくぜんとした。

結局、開戦は止められなかった。「どうしても戦うのか」。資料の文面から、学者たちの嘆きが聞こえてくる気がした。報告書の内容を分かりやすく記すとともに、時代の流れに抗しきれなかった学者の苦しみやもどかしさを、伝えるべきだと思った。

原稿をまとめている最中、安全保障法制をめぐるニュースが盛んに流れていた。戦時資料に埋もれていた私は、既視感を覚えた。記者として無力感も抱いた。「学者たちも、こんな気持ちだっただろうか」。それでも、過去をこうして伝え続けることで、未来は変わる。そう信じていたい。

 

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