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【知られざる世界ランカー】

インターセプト真骨頂 鮫島萌・アルティメット豪代表

日本代表との練習試合でパスを出すオーストラリア代表の鮫島萌

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 愛好者は世界で6000万人、国内で150万人と言われるフライングディスク。そのディスクを使う競技の中に、英語で「究極」を意味するUltimate(アルティメット)と名付けられたものがある。鮫島萌(31)は「投げる、走る、跳ぶ。さまざまな能力が求められるまさに究極のスポーツ」と語る。4年前、日の丸を背負って世界一に輝いた彼女は、今度はオーストラリア代表として6月の世界選手権優勝を狙う。

 3月11〜13日、富士川緑地公園(静岡県富士市)。国内最大規模の大会「ドリームカップ」に鮫島の姿はあった。世界選手権をにらみ特別出場したオーストラリア代表は順当に勝ち進み、決勝戦でも日本代表に競り勝った。鮫島は「日本のパスワークもすばらしいけど、最後はロングシュートで決まった」と個の力を勝因に挙げた。

 バスケットボールとアメリカンフットボールを合わせたような競技だ。フライングディスクをパスしながら運び、コート両端のゾーン内でキャッチすれば得点が入る。

 日本の持ち味は、緻密にパスをつないで相手の防御を崩していく組織力。一方、欧米ではロングパスなど独創的なプレーも尊重される。鮫島は昨年、「競技を始めて12年。悪く言えばマンネリ。凝り固まりつつあるプレースタイルを破りたい」と、オーストラリアでのプレーを決意。代表選考会に臨み、その座をつかんだ。各国代表チームは、外国籍選手1人を加えることが認められている。

 得意のプレーはダイビングキャッチ。しかも相手のパスをインターセプトすれば、攻撃権が移り、劣勢から一転、攻勢へ転じることができる。「試合の流れを変える守備」は鮫島の真骨頂だ。ヘッドコーチのジョン・ホランは言う。「彼女は世界のベストディフェンダーの一人。視野に優れ、相手のプレーの予測がすばらしい」

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 中学、高校とバレーボールに打ち込んだ鮫島は、中京大でアルティメットに出会った。元日本代表の兄、暁(さとる)さん(34)の勧めで練習を見学した時のこと。ダイビングキャッチを試みたら大歓声を浴びた。バレーボール経験者にとって、飛び付くことはお手のもの。「自分に向いているスポーツ」と直感した。

オーストラリア代表選手らとタッチを交わす鮫島萌(中)=静岡県富士市の富士川緑地公園で

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 前年大学日本一の強豪チームで腕を磨くと、鮫島が在籍した4年間も大学日本一の座を死守。卒業後は「世界一を目指したい」と高校の体育講師などを務めながら、アルティメットを生活の中心に置いた。日本代表入りを果たすと、2008年の世界選手権で準優勝、前回12年大会で念願の優勝を果たした。

 だが、この世界一を境に鮫島の心境に変化が訪れた。「大好きなはずなのに全然楽しくない。もっと純粋にアルティメットを楽しみたい」。それは、決まり事が多く、悪く言えば組織の歯車となることが求められる日本のプレースタイルへの疑問だった。

 14年シーズンを終え、競技の一線から退くことも考えていた時、現主将のミシェル・フィリップス(28)から連絡が来た。「モエ、メルボルンに来ない?」。最初は練習だけのつもりだったが、個人の長所を生かした戦術の数々に「目からうろこが落ちる思いだった」と鮫島。再び競技への意欲が湧き上がった。

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 正直、物価の高いメルボルンでの暮らしは、経済的に苦しい。しかも代表選手は毎月600豪ドル(約5万円)を活動費として支払わなければならない。協会からの資金援助はなく、広い国土を飛行機で移動する交通費などにも充てるためだ。

 マッサージ店、ベビーシッター、ハウスクリーニングと、鮫島はいくつものアルバイトを掛け持ちする。住居はチームメートとシェア。毎日料理を担当することで、家賃の負担を軽減してもらっているほどだ。

 そんな鮫島の頑張りに主将のフィリップスは「言葉も文化も違う異国に一人で来て、今やチームを引っ張る存在。みんなモエから刺激を受けている」と話す。

 世界選手権後は、もう1カ国、米国かカナダでプレーし、いずれは海外で学んだことを日本に還元したいと思っている。「将来はアルティメットが子どもたちの人気スポーツになってくれたら」。そんな夢を思い描くのだ。 (牧田幸夫)

◆相手エンドゾーンでキャッチしたら得点

<アルティメット> 1960年代に米国の高校生が考案した7人制のチームスポーツ。100メートル×37メートルのフィールドで、フライングディスクを落とさずにパスをして運び、コート両端のエンドゾーン内でディスクをキャッチすれば得点となる。世界大会では17点先取の得点制で勝敗を決める。審判はおらずフェアプレーを最重要視したセルフジャッジ制を導入している。日本フライングディスク協会によると、競技登録者は国内4300人(200チーム)、世界で15万人。世界連盟が昨年公表した国別ランキング(男女、各世代総合)の上位6カ国は米国、カナダ、ドイツ、英国、オーストラリア、日本。

<さめしま・もえ> 高校まではバレーボール選手。元日本代表の兄の影響を受け、中京大でアルティメットを始める。日本代表選手として活躍し世界選手権は2008年準優勝、12年優勝。15年オーストラリア代表「ファイアーテールズ」入団。160センチ、53キロ。愛知県春日井市出身、31歳。メルボルン在住。

 

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