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【知られざる世界ランカー】

福田恭巳・スラックライン女王 5センチ幅 ベルト上の美技

スラックラインの練習をする福田恭巳。「開脚の静止技は得点は低いが、一番盛り上がる」という=千葉市若葉区で

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 彼女が最も輝くのは、地上120センチに張られた5センチ幅のベルトの上。跳んだり、回ったり、宙返りをしたり。「スラックライン」という新しいスポーツで、24歳の福田恭巳(ゆきみ)は女王の名をほしいままにしてきた。

 綱渡りとトランポリンを足したような競技は、2007年にドイツのスポーツメーカーがナイロン製の専用ベルトを開発したことから、欧米を中心に普及した。ハラハラドキドキの綱渡り。そのロープが「5センチ幅」になったことで、誰もが楽しめるスポーツに進化した。

 福田は「体操競技のようなアクロバティックな一面がありながら、自由にパフォーマンスができるストリートっぽいところもある」と魅力を語る。国内に入って間もない10年から競技を始め、日本オープン選手権で翌11年から5連覇中。13年には世界ランキング1位に上り詰めた。

 採点競技で大会は1対1のトーナメント方式で行われる。計2分の持ち時間内で交互に技を披露。得意技を決めた後など、自分のタイミングで演技を区切り相手と交代する。技の難易度、完成度が審査され、観客をいかに盛り上げたかも重要なポイントだ。

 「演技は臨機応変さが大切。ミスしてひるんだ隙に大技を仕掛けるとか、相手の出方によって技の種類や順番を変える駆け引きが必要」

 ベルト上に立った状態から前方に宙返りし、ピタッと立つ。国内女子では福田にしかできない持ち技もあるが、一番の売りは「本番に強い」ことだそうだ。

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 ロッククライミングの有望選手だった福田が、スラックラインと出合ったのは高校3年の時。アルバイト先のジムに導入された。当初は綱渡りを楽しむ程度だったが、周囲に触発され、次第にいろんな技に挑戦するように。

 インターネットが日本中の愛好者をつなげたという。各自が競い合うように技の動画をアップし、切磋琢磨(せっさたくま)した。手本にしたのが海外のトップ選手の動画。福田は「こんな技があるの? バク宙もできるの? 刺激を受けて繰り返し練習した」と振り返る。

 男子と同じ高レベルの技をより美しく見せる。福田が女子のトップに立つのに時間はかからなかった。11年に初の日本一になると、翌年は世界大会に参戦。短大で保育士の資格を取ったものの、卒業後は就職せず、2年間、米国など海外を転戦した。

 「世界大会に出ると、やっぱり上には上がいた。もっとうまくなりたい、世界一になりたいと思った」

 13年に念願の世界女王の称号を得た福田だが、この3年間で急速に進んだ技の進化には正直、戸惑いもある。「例えば、お尻ではねての前方宙返りは2回転が当たり前。横回転は2回転半。体操出身の選手が増えてきた。彼らは空中に跳べば自由自在…」

ナイロン製のベルトを太い木に結びつけて練習の準備をする福田恭巳

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 CM出演に各種イベントでのパフォーマーと、福田は14年からプロの「スラックラインライダー」として活動を始めた。しかし、本業一本で食べていくことはできず、アルバイトをしながらの競技生活に変わりはない。

 「好きだから夢中になってやってきただけなのに、気が付いたら普及のことも考えないといけない立場になった」と苦笑する。トップ選手としての息苦しさに「やめたい」と思ったこともある。それでも「あとに続く子どもたちの道をつくってあげることは自分の役目」と思っている。

 今では多くのフィットネスジムに導入され、スラックラインの国内愛好者は数万人とみられる。福田はまずは体験してほしいと呼び掛ける。

 「誰でも手軽にできるのが大きな魅力。歩くだけでもいい。バランスを取るだけで体幹トレーニングになる。人それぞれの方法で楽しんでもらえれば」

 (牧田幸夫)

 <スラックライン> 簡単に言うと、綱渡り。英語でスラック(slack)は「緩み」「たるみ」の意味。2007年にドイツのギボン社が5センチ幅のベルトと、ベルトを張る器具を開発。街中でも遊べるようになり、ヨーロッパを中心にニュースポーツとして普及した。ジャンプや宙返りなどを行う代表的なスタイルは「トリックライン」と呼ぶ。ほかに従来の綱渡りのように歩く距離を競う「ロングライン」、歩く高さを競う「ハイライン」などがある。国内の大会出場者は200人ほどだが、愛好者は数万人にのぼるとみられる。

 <ふくだ・ゆきみ> 高校3年の2010年にスラックラインを始める。翌11年から日本ランキング1位を続ける国内不動の女王。13年は世界ランキング1位。国内最大の日本オープン選手権は11年から5連覇中。14年にギボンスラックライン(ドイツ)とインターナショナル・プロアスリート契約を結び、各種教室の開講やプロモーション活動など幅広く活躍中。162センチ、45キロ。千葉県浦安市出身、24歳。

 

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