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【知られざる世界ランカー】

フットバッグプレーヤー・石田太志 無限の足技 踊る、跳ねる

バッグを落とさずに蹴り続ける石田太志。技のレパートリーは豊富だ=東京都渋谷区で

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 お手玉のような小袋(バッグ)を地面に落とさずに蹴り続ける「フットバッグ」。高速で華麗な足さばきは、まるでダンスのよう。石田太志(32)は日本で唯一、プロのフットバッグプレーヤー。2014年にアジア人初の世界一に輝き、近年は各地のイベントに引っ張りだこだ。

 ポン、ポン、ポンと、跳ねているように見えるバッグだが、石田は「蹴るというより、足の甲などで動きを吸収して受け止め、また上げる」。直径5センチほどのバッグは、重さ約60グラムで中身は鉄の粒。くるっと回転したり、足でまたいでみたり。技のレパートリーは1000種類もある。

 代表的な種目「フリースタイル」は、音楽に合わせて技を披露し、芸術点と技術点を採点。「シュレッド30」は、30秒間でどれだけ多くの技を繰り出せるかを競う。2年前の世界大会、石田はこの種目で頂点に立った。昨年は出場5種目すべてでトップ10入りしたが、優勝は逃した。それだけに今年は8月の世界大会(スロバキア)で世界一奪回に燃える。

 「自分の時間を大好きなフットバッグのために使いたい」と、5年前に会社勤めを辞めた。フットバッグを職業として確立したパイオニアの演技は、「情熱さえあれば、不可能と思われていることも可能になる」という強烈なメッセージを発信している。

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 小学校から高校まで、12年間サッカー一筋。大学でも続けるか迷っていた03年4月、スポーツ店でフットバッグのPR映像を目にした。リフティングに似た動き。スケートボードのようなストリート的な雰囲気。「カッコイイ」。バッグを1500円で買い、早速、練習を始めた。

 国内でやっている人はほとんどおらず、海外選手の動画を見ながらの独学。リフティングとは勝手が違ったが、「技の種類が多く、達成感と自分の成長が感じられる」と、すぐにはまった。

 大学3年の終わりころ、競技の盛んなカナダに約8カ月間の「フットバッグ留学」。現地のトップ選手と練習し、路上パフォーマンスで腕を磨いた。帰国後、06年秋の全国大会で初優勝。念願の日本一になると、次は世界を意識するようになった。

 大学卒業後、大手服飾会社に就職したが、3年半で退職した。27歳の決断。「プロとはいえ、フットバッグで食べている人は世界中に1人もいない。手探りのスタート」。スポンサーを求めて何百もの企業を回り、社長には直筆の手紙も書いた。だが、ほとんど相手にしてもらえず、途方に暮れた。

 蓄えも底をつき、「ガスも水も止められる寸前までいった」という困窮時代。失業手当とイベントの出演料で何とか食いつないだ。

「バッグ」と呼ばれる小袋を手に笑顔を見せる

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 世界一になったのを契機に、イベントやテレビ出演も増えた。今では個人指導の生徒を抱えるほど、仕事は充実してきた。今こだわるのが「フットバッグの可能性」だ。

 石田の助言で近年、格闘家はじめ、サッカーや野球選手がフットバッグをトレーニングに取り入れるようになった。股関節の可動域を広げ、付近の筋肉を鍛える。足の上げ下げ運動も「バッグを乗せて落とさないようにすることで、インナーマッスルを刺激する効果がある」。

 市民の健康増進へのアプローチも積極的だ。フットバッグはもともと、米国の医者がひざをけがした患者のリハビリ用に考案されたもの。「老化が進むと、脚の筋力が衰え、つまずきやすくなる。デイサービスなどにお邪魔して、おじいさん、おばあさんにやってもらうんです」

 最近、横浜市内の小学校のPTAから「子どもたちに広めたい」という申し出を受けた。握り包めるほどの小さなバッグが、老若男女、さまざまなコミュニティーに夢や楽しみ、健康を提供する。

 「多くの人に知ってもらい、日本にフットバッグという文化を根付かせたい」 (牧田幸夫)

 <フットバッグ> 1972年、膝の手術をした患者のリハビリ用に米国で考案されたのが始まり。より蹴りやすいバッグやさまざまな技が開発されるようになり、欧米を中心に競技人口600万人の人気スポーツとなった。華麗な足技を採点で競うフリースタイルはじめ、連続で蹴り続ける回数、時間を競うものなど多くの種目がある。国内の愛好者は推定5000人だが、大会出場者は50人程度。

 <いしだ・たいし> 日本でただ1人のプロフットバッグプレーヤー。世界大会は6度出場し、2014年に優勝。各種イベントやメディア出演を精力的に行っている。バッグを使った股関節トレーニングの他競技への普及や、高齢者の健康促進にも精力的に取り組む。日本サッカー協会の「夢先生」の資格を持ち、全国の小中学校を訪問し、フットバッグを通して夢を持つことの大切さを伝えている。161センチ、59キロ。横浜市出身。32歳。

 

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