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【知られざる世界ランカー】

ライフセーバー・三井結里花 ゴールの先 救う命

救助を想定した種目「ボードレスキュー」で、ボードを抱えて沖に走り出す三井結里花=神奈川県藤沢市の片瀬西浜海岸で

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 海水浴場など水辺の事故防止に取り組むライフセーバー。監視・救助活動の技術向上を目的に、スポーツとして行われるのがライフセービング競技だ。日本代表の三井結里花(24)は「記録ではなく、最後までやり抜くことが大切な自分を高められる競技」と誇らしげだ。

 今年の全日本ライフセービング選手権大会(10月8、9日・神奈川県藤沢市片瀬西浜海岸)。4種目を組み合わせた花形のオーシャンウーマン決勝で、三井は2位以下を大きく引き離す規格外のレースで2年連続5度目の優勝を飾った。

 スイム(400メートル)、パドルボード(600メートル)、サーフスキー(800メートル)と、これらの種目をつなぐランからなる過酷な鉄人レース。9月の世界選手権(オランダ)で日本勢過去最高の5位と躍進した三井は、最初のスイムから独走状態。ゴールした時には、大半の選手は3種目目のサーフスキーに取り掛かったところだった。

 次元の違うぶっちぎりのレースにもかかわらず、最後まで力を抜かなかった理由をこう話す。

 「世界選手権でメダルを取ることが目標なので、常に自分の前には人がいると思って全力疾走した。それに全力を出し切ることは私のモットーなので」

 溺れている人を見つけたら、一秒でも早く救助に向かう。ライフセーバーの世界には「競技のナンバーワンは、レスキューのナンバーワン」という格言がある。ゴールの先には、救う命があるのだ。だから競技者としても高みを目指し続ける。

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オーシャンウーマン決勝でパドルボードをこぐ三井

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 5歳から水泳を始め、将来はオリンピック選手になるのが夢だった。日大三高時代は自由形の選手としてインターハイ出場。だが記録の伸び悩みに直面すると、タイムがすべての競泳は決して楽しいものではなかったという。

 「でも、好きな泳ぎは続けたい」と日大進学後は、以前から興味があったライフセービング部へ。「人のために役立つ」ことも選んだ理由だった。

 夏は千葉県の海岸で監視活動。泳ぎは得意だが、救助に向かう時に使うパドルボードやサーフスキーをこぐのは初めて。「何でも先輩に聞いて、チャレンジした。一年の時が一番楽しかった」と振り返る。天性の頑張り屋さんは、水を吸うスポンジのようにライフセーバーに必要な技能を習得していった。

 そして大学2年の2011年の全日本選手権で早くもオーシャンウーマンの日本一に輝く。19歳で国内のトップ選手に躍り出た。

 日本初の女性プロライフセーバーで三井が尊敬する佐藤文机子(ふきこ)さん=日本ライフセービング協会スポーツ推進本部副本部長=は「彼女は常に上を目指して世界と戦ってきた。アイアンマン(鉄人)レースで世界5位って本当にすごいこと。ゆくゆくは日本のライフセービング界をけん引していく人材になってほしい」と期待する。

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 ライフセーバーの訓練は厳しい。もし力士のような大男を助ける時でも、女性だからできませんは通用しない。そして大切なのは救助してから。正確な心肺蘇生を実施しなければならない。

 だからライフセービング競技では、ゴール直後に倒れ込んだりすれば失格となるし、膝に手を当てて「ハーハー」と苦しい素振りを見せるのもご法度だ。

 そんな人命救助のイメージが強いライフセーバーだが、力を入れているのはパトロールや啓発といった事故を未然に防ぐ活動だ。レジャーシーズン、痛ましい水難事故は後を絶たない。

 三井は「遊泳客には流れの速い場所や、急に深くなっている危険ポイントを教えたりします。自分の身は自分で守る。セルフレスキューができるようになれば、海がより身近で親しみのある場所になると思う」。

 競技者の幕はいつか下りるが、ライフセーバーは一生続けたいという三井が意地悪っぽく言った。「ライフセーバーの夢って何だと思いますか? ライフセーバーを必要としない社会をつくることなんです」 (牧田幸夫)

 <ライフセービング競技> 海で行うオーシャン競技とプール競技があり、オーシャン競技には沖で行うサーフ種目と砂浜で行うビーチ種目がある。4種目をこなす鉄人レース、オーシャンマン(ウーマン)の勝者は、ミスター(ミス)ライフセーバーとしてたたえられる。ビーチフラッグスは人気種目。日本ライフセービング協会によると、登録ライフセーバーは136クラブ、約3400人。

 <みつい・ゆりか> 千葉県の九十九里ライフセービングクラブに所属するライフセーバー。日大鶴ケ丘高校保健体育科非常勤講師。オーシャンウーマン5度の優勝をはじめ、プール競技の花形種目200メートルスーパーライフセーバー6連覇など、これまでに全日本選手権の個人種目で史上3位の17個の金メダルを獲得。世界選手権は3度出場し、9月のオランダ大会ではオーシャンウーマン5位、サーフレース6位と日本選手過去最高順位をマーク。団体競技で銀、銅二つのメダルを獲得した。162センチ、58キロ。東京都八王子市出身。24歳。

 

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