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【知られざる世界ランカー】

八木愛莉カヌー・スラローム 海外に拠点、東京五輪照準

多摩川の御岳渓谷で練習する八木愛莉=東京都青梅市で

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 巧みなパドルさばきで激流を操り、旗門(ゲート)を通過する技術とタイムを競うカヌー・スラローム競技。女子カナディアンシングルの八木愛莉(21)は、五輪種目となる2020年東京大会でメダル獲得を目指している。

 昨年から練習の拠点を強豪国のスロバキアに移した。欧州でのシーズンを終え、帰国中に参戦した今年のジャパンカップ最終戦(10月22、23日、東京都青梅市御岳特設カヌーコース)で、八木は2位に10ポイント(10秒分)の差を付けて圧勝した。

 「帰国後は(欧州の)人工コースから自然のコースへと環境が変わり、最初は不規則な流れの変化に対応できず焦った。練習を重ねて感覚を取り戻すことができたので、自信を持って試合に臨んだ」

 複雑な水の流れを読む能力が求められるスラロームを八木は「頭脳戦」と表現する。一つ一つのゲートをどう攻略していくか。予選はほぼイメージ通りできたのに対し、決勝レースは22のゲートのうち、2カ所でペナルティーを取られた。「今後の課題はミスを修正し、よりよいタイムを出すこと。誰にも負けないテクニックを身に付けなければ」と気を引き締める。

 連戦した9月のワールドカップ(W杯)は、チェコ大会24位、スロベニア大会28位。正直、これが今の世界での実力だ。4年後に向け「来年はW杯で10位内に入り、18〜19年の世界選手権でメダル圏内を狙える位置に」と青写真を描く。

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 小学5、6年と全国少年少女カヌー大会で連覇。競技の世界に興味を持ち、両親に頼み込んで本格的にスラロームを始めた。中学2年の時、練習拠点が同じ御岳(東京都青梅市)の竹下百合子が北京五輪で4位入賞の快挙。「私も将来はオリンピックに出る」と夢を膨らませた。

 初の国際大会は高校1年で出場した世界ジュニア選手権(フランス)。62人中53位で予選落ち。2年後は27位まで順位を上げたが、世界の壁の高さを肌で知った。

 「激しい流れと呼吸が合い、一体となったときに私だけの世界が広がる」。カヌーの魅力をこう語る八木だが、自然相手はけがが付き物。この頃から肩の亜脱臼に悩まされるようになった。

 当時行っていたのはパドルの両端に水かきがあり、両手をフルに使ってこぐカヤック。「予測不能な激流にもまれると、予期せぬ体勢を強いられる。国際大会のレース中に肩が外れたときは、さすがに心が折れた」

 13年10月に左肩を手術。リハビリの一環として始めたのが、パドルの片端が水かきのカナディアン。「東京五輪で女子の種目に採用されることがほぼ決まっていたが、当時、日本の女性で(本場の)ヨーロッパを拠点に競技している人はいなかった」。半年間のリハビリを経て14年5月、カナディアンの選手として競技に復帰した。

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 「東京五輪でメダルを取る」−。明確な目標を掲げ、周囲に公言するようになった八木は、15年6月にスロバキアへ渡った。海外での武者修行は、初めて日の丸を背負い惨敗した高校1年の時からずっと温めていたものだ。

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 最初は子どもたちのクラブチームに入れてもらい、コーチ探しから始まった。そこで力を貸してくれたのが羽根田卓也だったという。リオデジャネイロ五輪男子カナディアンシングル銅メダルの羽根田は、10年前からスロバキアで生活する。

 羽根田が紹介してくれたW杯優勝経験のある女性コーチの下で、貪欲に世界トップクラスの技の習得に励んだ。今年7月に彼女が別の国のクラブに招聘(しょうへい)されると、今度は持ち前の行動力で「男子トップ選手のチームにお試しで入れてもらった」。来年もスロバキアを拠点に活動する。 

 現在、早大の4年生。夢は競技の普及を進め、カヌーをメジャーなスポーツにすることだという。「競技人口は男子の7に対し女子は3なので、女性をもっと増やしたい。そのためにも五輪の舞台で輝きたい」 (牧田幸夫)

<やぎ・あいり> 中学から本格的にカヌー・スラローム競技(カヤックシングル)を始め、高校時代はジュニア日本代表。左肩の手術を経て2014年、カナディアンシングルの選手で競技に復帰した。U−23世界選手権は15年18位、16年24位。15年のシニアの世界選手権は32位。東京五輪に向け、昨年から練習拠点をスロバキアに移した。早大スポーツ科学部4年。158センチ、55キロ。相模原市出身。21歳。

<カヌー・スラローム> 全長約300〜400メートルのコースに最大25個のゲートがつるされ、通過する技術とスタートからゴールまでの所要時間で競う。ゲートは上流から下流に通過するダウンゲートと、逆に下流から上流へくぐらなければならないアップゲートがある。接触、非通過はペナルティーが科せられる。減点ポイントとタイムが計算され順位が決まる。カヌーの国内競技人口は約5500人で、このうちスプリントが最も多く約3000人。スラロームは約400人。

 

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