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【知られざる世界ランカー】

オール10点 その先へ バトントワラー・駒田圭佑

バトンを自在に操る駒田圭佑。パフォーマーとして新たな挑戦を始める=世田谷区の駒沢屋内球技場で

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 マーチングバンドの指揮者が、指揮杖を振り回したことが始まりとされるバトントワリング。あまり知られていないが、日本はこの競技で世界トップの実力を誇る。「最強日本」を象徴するバトントワラーが駒田圭佑(27)だ。今秋には劇団の舞台への出演も決まり、「表現者として活動の幅を広げ、バトンの魅力を広く伝えたい」と意気込む。

 駒田の名をとどろかせたのは、男子シニア部門で連覇した二〇一四年の第三十二回世界選手権(英国)。音楽に合わせて二分半の演技をするフリースタイル種目の準決勝と決勝で、八人の審査員全員が技術点、芸術点ともに10点満点をつけた。世界大会での「オール10点」は男女を通じて初の偉業だった。

 二年後の第三十三回大会(スウェーデン)で、さらに伝説をつくる。今度は予選から決勝まで三回の演技すべて「オール10点」で、世界選手権三連覇を果たした。同行した日本バトン協会の沖田裕司事務局次長は「ミスが起きることが想像できないほどの完璧な演技。採点が始まると、10点を期待する観客が立ち上がって『ten、ten、ten!』とコールし始めた」と振り返る。

 バトントワリングは約七十センチの金属製の棒を自在に操り、その技術と表現力を競うスポーツだ。見た目の優雅さとは裏腹に、体力と集中力が求められる。例えば高さ十五〜二十メートルに投げ上げて、片足を軸に体を縦回転し続けた後にキャッチする「イリュージョン」という技がある。四回転すれば高難度の大技となるが、駒田はさらに背面でブラインドキャッチする。世界初の五回転キャッチにも成功した。

 群を抜く力量で無敵の世界王者となったが、三連覇を区切りに競技の第一線から身を引いた。「世界でただ一人、ゴールをしてしまった」(関係者)という達成感もあるが、バトン界の未来を思っての決断でもある。

 「いくらうまくなってもバトンでは食べていけない現状がある。現役を続けるより、今やっている子どもたちに、バトンが将来仕事になるという道筋をつくってあげることが大切だと思った」。今年十一月からは劇団☆新感線が公演予定の「メタルマクベス disc3」への出演が決まった。指導者の傍ら、プロのパフォーマーとして新たな挑戦を始める。

演技を終えた選手たちにコーチとしてアドバイスする駒田(右)=駒沢屋内球技場で

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 バトンとの出合いは五歳のとき。三歳上の姉が通うバトン教室に付いて行った。両親は「バトンは女子のスポーツ」と反対したが、「野球のボールやグラブ、バットを買ってもらっても全く興味を示さず、バトンに夢中になっていた」という。

 その魅力を駒田は「一本の棒で多彩な表現ができ、広い空間を使ったダイナミックな演技ができること」と語る。八歳から所属する自由が丘バトンクラブ(東京都目黒区)の栗田綾子コーチ(東京都バトン協会理事長)は「本当に努力家。新しい技をつくり、繰り返し練習する。必ずできるようになりたいという思いがすごく強かった」と回想する。

 小学五年生で世界選手権に初出場し、小六から高一まで男子ジュニア部門で五連覇。シニアになって四回目の挑戦で世界一になった。「トップであり続けるためには、同じことをしていてはいけない」と、常に新しいものを生み出し、トップランナーとして走り続けてきた。

 現在、所属クラブでは上級者の指導を担当し、コーチ稼業も板についてきた。「バトンの魅力を発信し、もっともっと知名度を上げたい。そしていつかはオリンピック種目にも」。宙高く舞い上げる一本の棒に、大きな夢と可能性を思い描くのだ。

2016年の世界選手権スウェーデン大会で、8人の審査員全員が10点をつけた得点の掲示板=日本バトン協会提供

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<こまだ・けいすけ> フリースタイルで競う世界バトントワリング選手権の男子シニア部門で、2012年の第31回フランス大会から3連覇。日本人男子では稲垣正司、佐々木敏道、河津修一に次いで4人目の世界王者となる。全日本選手権では1本のバトンで技術を競う「ソロトワール」、2本のバトンを使う「トゥーバトン」で各5度優勝。フリースタイルでも3度の日本一。自由が丘バトンクラブ所属。162センチ、57キロ。東京都渋谷区出身。27歳。  

<バトントワリングと日本> 20世紀初めに米国で広まり、日本では1960年代前半に普及した。78年に世界バトントワリング連合(WBTF)が発足し、80年に第1回世界選手権が開かれた。日本は89年の第10回スイス大会で初めてワールドカップ(W杯=国別総合1位)を獲得。前回2016年の第33回スウェーデン大会では、4度目の3種目(個人、ペア、チーム)7部門完全優勝で21大会連続22回目のW杯を獲得した。

 競技スポーツとして発展させた米国やカナダを抜き、日本がバトン大国になった背景を、日本バトン協会の土屋素明国際部長は「日本人は勤勉なうえ、一つのことを最後まで全うする価値観を持つ。バトンを始めたら最後まできっちりやる。米国など海外ではシーズンによって違うスポーツをする」と説明する。協会によると、登録会員約1万7000人のうち男子は3%。

 文・牧田幸夫/写真・七森祐也

 

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