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【知られざる世界ランカー】

道なき道を攻める MTBライダー・池田祐樹

現在住んでいる青梅市内の林道で練習する

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 米プロバスケットボール協会(NBA)入りを夢見て米国に留学したバスケットボール選手が、そこで出合ったマウンテンバイク(MTB)に魅了され、20代半ばでプロのライダーに転身した。現在は長距離・耐久レースの第一人者へと上り詰めた池田祐樹(38)は、「ゴールにたどり着いた時の達成感と感動は何物にも代え難い」と、世界の大自然を疾走する。

 長野県王滝村で今月20日、国内最大のMTBレース「セルフディスカバリーアドベンチャー(SDA)・イン・王滝」が行われた。御嶽(おんたけ)山麓の未舗装の林道を走る過酷な100キロレースで、池田は出場約900人中、4位でゴールした。

 「優勝しか見ていなかったので、本当に悔しい。ベストは尽くしたが、レース序盤の不調が響いた。もちろん、秋は優勝を狙う」

 27日には、御嶽山の標高890メートル地点から2180メートルまで駆け上がるレース「ヒルクライム」に出場し2位に。9月の120キロレースを含めた3戦の総合で、今年のシリーズ王者が決まる。過去に王滝で春秋計4度優勝している池田は、「がぜん、やる気スイッチが入った」と巻き返しに燃える。

 MTBマラソンの世界選手権日本代表の常連だが、意外なことに池田が出場レースを決める基準は、大会の格よりも、純粋に楽しめるかどうかの一点だという。「獣道のような、道なき道を走る。刺激があってワクワクするコースを走り続けたい」

 特に、数日かけて長距離を走るステージレースに重きを置く。5〜10日間かけ数百〜1000キロを走破する己の極限との闘い。モンゴルの大草原、オーストラリアの灼熱(しゃくねつ)の大地、ネパールのヒマラヤ山岳地帯を舞台にした3レースの激走ぶりは、NHKのドキュメンタリー番組「グレートレース」で紹介された。

 今年も6月から8月にかけスリランカとコロンビアで行われる、2つのステージレースに照準を合わせる。

「ワクワクするコースを走り続けたい」と語る

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 中学からバスケットボール一筋だった池田がMTBと出合ったのは、日本体育大学を卒業後に留学した米コロラド州の大学。アウトドアスポーツ体験で、ぽっちゃりした体形の講師が自転車で勾配のある岩場を器用に登っていく光景に衝撃を受けた。

 「体力だけではない奥の深さを感じた。こんなに面白いスポーツがあるなら、やらないと後悔する」。本来の留学目的であるバスケットボールに行き詰まっていたこともあり、「新しい恋をした感じ」とMTBにのめり込んだ。

 24歳で初めてレースに出場し、プロを目指した。周囲は「20代半ばの挑戦。しかもマイナースポーツ」と心配したが、池田は「自信があった」と大会で好成績を重ねた。2008年、同州スノーマスでの12時間耐久レースで優勝。これまで出場した約150レースの中で最もうれしかったというこの優勝で、MTB界のレジェンド、デイブ・ウィンズ(米国)が所属するチーム入りをかなえ、プロライダーとしての視界が広がった。

 11年に帰国後は国内外のレースに積極的に参戦し、自ら大会リポートを書いて発表している。「MTBの醍醐味(だいごみ)はアドベンチャー感。木の根、岩、砂利、泥、常に変化するオフロードを突き進む」。そんな魅力を発信し続けるのも、自分の使命だと思っている。

 池田の競技生活は、高校の同級生でアスリートフード研究家の妻清子(さやこ)のサポート抜きには語れない。

 日々の食事は植物性の食品が中心だ。30歳を過ぎてから喘息(ぜんそく)、花粉症、高血圧の症状が出始め、医師に「適度な運動を心掛けてください」と笑い話のようなことも言われたという。

妻清子さん(左)が競技生活を支える

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 清子と当時のチームメートの助言で14年から食生活の改善に取り組み、肉や魚介、タマゴなどの動物性食品を控え、玄米、野菜、豆、海藻中心の食事に切り替えた。すると半年後に症状は消え、同年7月の米国での100マイル(約160キロ)レースで優勝。「健康体になり、そのうえ結果も出た」と、この成功体験は夫婦の自信を深めた。

 清子は2つの会社を経営しながら、遠征に同行できる時は食事面やマッサージなどでサポートする。「命を削って走っているので、できるだけのことをしてあげたい。何でも先回りして、驚かせてやろうというぐらいの気持ちでやっている」

 憧れのデイブ・ウィンズは47歳の優勝インタビューで「今が競技人生でベストな状態だ」と言ってのけた。「最低限その年までは現役を」と願う池田にとって、食事と妻の支えが大切なのは言うまでもない。 (敬称略)

<いけだ・ゆうき> 2011年から7年連続MTBマラソン世界選手権の日本代表。長距離・耐久レースの国内トップ選手で、16年の「ランブル・イン・ザ・ジャングル4日間」(スリランカ)、15年の「アルパックアタック6日間」(アルゼンチン、チリ)など海外のステージレース優勝も多数。米国のトピーク・エルゴン・レーシングチーム所属。米国自転車連盟認定コーチの資格を持つ。173センチ、63キロ。青梅市在住。38歳。

 文・牧田幸夫/写真・潟沼義樹

 

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