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【知られざる世界ランカー】

頂へ 大波つかむ ボディーボード・大原沙莉

ボードに腹ばいになり波に乗って滑走する大原沙莉=千葉県一宮町の釣ケ崎海岸で

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 ボードに腹ばいになって波乗りを楽しむボディーボード。ボードの上に立つサーフィンよりも手軽にできるとあって、女性を中心に幅広い層で人気だ。競技としても日本のレベルは高く、最高峰のAPB世界ツアーを転戦するトッププロ、大原沙莉(さり)(23)は「日本人初の世界チャンピオンを目指しています」と、目標をまっすぐ見据える。

 八月上旬、APBツアー第二戦が、オーストラリア南東岸のカイアマで開かれた。五月にチリで行われた第一戦は五位。巻き返しを目指した大原は、初めて経験するカイアマの波に苦戦しながらも四位と健闘し、二戦のトータルでも四位につけた。

 「波のサイクルを読む力が必要だと痛感しました。まだまだ学ぶことばかり。貴重な体験でした」。同じ波は二つとしてない。大きな波を確実にとらえ、より大きな技を決めた選手が勝ち残っていくのだ。

 今年は残り二戦で、九、十月にともにポルトガルで開かれる。十月の会場はビッグウエーブで有名なナザレ。昨年は鈴木彩加(23)と決勝で争い二位だった。「私の得意な波。今年は優勝したい」。二戦の結果次第では、逆転で初の年間一位、世界チャンピオンになる可能性はある。大原のAPBツアーの過去最高ランキングは二〇一五年と一六年の三位で、これが日本選手の最高成績だ。

 ボディーボードの基本的な技には、左右に回転する「スピン」、ぐるっと縦回転する「エルロロ」、波から飛び出す「エアリアル」がある。中でも縦と横の回転を組み合わせたARS(エアリアル・ロール・スピン)は、難度の高い大技で、その成否は勝敗の行方を左右しかねない。

波の力を利用して回転技を決める=千葉県一宮町の釣ケ崎海岸で

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 大原のコーチである元プロボディーボーダーの小池葵(40)は「彼女の魅力は何と言ってもパワフルな攻めるライディング。技を確実に試合で決められるように指導している」と話す。大原も最高のパフォーマンスを追求する。「上半身、特に背筋はしっかり鍛えている。食事制限もしますね」。プロアスリートとしてのプライドが甘えを許さない。

 二〇年東京五輪のサーフィン会場に決まった千葉県一宮町の釣ケ崎海岸。この日本有数のサーフスポットで、大原は腕を磨いた。父はサーフィン、母はボディーボードが趣味という波乗り一家。弟の洋人(21)は、東京五輪でメダルを目指すトップサーファーだ。

 小学五年で本格的にボディーボードを始めた。「小池さんのスクールに行くようになり、みんなと海に入るのが楽しくて夢中になった」と大原。「負けず嫌いで男っぽい元気な子」(小池)は、お姉さんたちの技を見よう見まねで挑戦し、どんどん上達していった。

 中学三年になると、全日本選手権(アマチュア)で優勝し、晴れてプロ宣言。通信制の高校に進学し、競技に打ち込んだ。一二年には国内プロツアーで年間チャンピオンに輝き、世界大会でも優勝。名実ともに日本を代表するボディーボーダーとなった。

愛用のボードを手に笑顔を見せる=千葉県一宮町の釣ケ崎海岸で

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 サーフィンと違い、水面ぎりぎりの低い視線で滑走するため、体感速度は実際の倍以上になるという。スピードとスリル、大きな波をつかまえた時の爽快感はたまらない魅力だ。「ボディーボードの楽しさを多くの人に伝えたいし、頑張っている選手やティーンエージャーたちには夢を見続ける力を与えたい」。これも世界チャンピオンを目指す理由だ。

 昨年はAPBツアーで二勝したが、年間成績は四位だった。弟の洋人は「ここ四年、姉はもう少しで世界一になれるところまできている。僕より早く実現するかもしれない。二人そろって飛躍できたら最高」と期待する。

 競技は違えど、ともに大きな波をつかんで頂への階段を上がっていく−。弟から受ける刺激も、欠かせない推進力なのだ。 (敬称略)

<ボディーボード> 1970年代初めにハワイで考案された。日本では90年代にブームとなり、女子高校生から20代女性を中心に愛好者が増えた。コンテスト(競技会)では技の完成度や難易度を、波の大きさを考慮しながら採点し、得点上位者がトーナメントを勝ち上がる。国内の競技人口は約80万人で、8割が女性とされる。

<おおはら・さり> 2012年にISA(国際サーフィン連盟)ワールドボディーボードチャンピオンシップで、日本人初の金メダルを獲得。最高峰のAPBワールドツアーの年間ランキングは14年から4位、3位、3位、4位。千葉県一宮町在住。23歳。

文・牧田幸夫/写真・坂本亜由理

 

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