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【知られざる世界ランカー】

時速160キロの魅力、伝えたい スピードボール・疋野将人

力強いラケットさばきで高速回転するボールを打つ疋野将人。スーパーソロの日本記録を持つ=いずれも埼玉県越谷市立総合体育館で

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 「パン、パン、パン」と乾いた打球音が体育館に響く。そのたびに、大人の背丈ほどの棒の先にコードで取り付けられたゴム製ボールが、棒の周りを高速で回転する。卓球より少し大きいプラスチックのラケットで打ち合う「スピードボール」だ。国内第一人者の疋野将人(ひきのまさと)(37)は「子どもから大人まで楽しめるスポーツ。魅力を伝えたい」と普及活動に奔走する。

 十月八日、埼玉県越谷市立総合体育館で開かれた「こしがやスポーツフェア」に、スピードボールの体験コーナーが登場した。設けたのは、疋野が会長を務めるNPO法人日本スピードボール協会。見慣れないスポーツは多くの市民の興味を引いた。

 ルールはシンプル。高さ百七十センチのポールの先端に長さ百五十センチのコードでつながるボールを、対面で打ち合う。ボールが二回転する間に打ち返さないと相手の得点になる。

 記者も体験してみた。水平に打っている間は、ボールの軌道が予測できるため、何とかラケットに当たるが、角度をつけて打たれるとかすりもしない。得点するためには打ち上げたり打ち下ろしたり、高低を使って相手が返しにくいところを狙うのがコツのようだ。

 対戦種目のシングルスとダブルスのほか、個人種目の「スーパーソロ」もある。右手、左手、両手フォアハンド、両手バックハンドの四つの打ち方を各一分ずつ行い、その打数の合計を競う。打ったとほぼ同時に一周して反対方向からやって来るボールを打ち返す。その繰り返し。トップ選手は一秒間に2打のペース、打球の体感速度は時速百六十キロになる。

 「対戦も面白いが、競技の土台となる技術がスーパーソロ。苦しい中で、ひたすら打ち続ける。体力と我慢と忍耐の勝負」と疋野。七年前に打ち立てた558打は、日本ランキング二位選手の記録を70打以上も上回るダントツの日本記録。二年前に両手フォアハンドで記録した一分間に151打は、今も破られていないギネス世界記録だ。

体験会で越谷アルファーズの鳴海亮(22)らを指導する疋野(手前)

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 疋野はもともと卓球の選手だった。中学時代は埼玉県大会で優勝、高校時代はインターハイに出場した。スピードボールとの出合いは二十四歳。ネットで卓球の経験を生かせるラケット競技を探していて見つけた。さいたま市内のクラブで体験し、夢中になった。

 「こんな面白いスポーツがあるんだと、その場でやることに決めた。競技人口は少ないので、卓球では果たせなかった日の丸を背負うことも夢ではないと思った」

 スーパーソロは上達具合が打数という形ではっきりと表れる。「目標は昨日の自分に勝つこと。毎日成長していく自分が楽しかった」。猛練習に明け暮れ、二年後の二〇〇七年に晴れて日本代表選手に。初の世界選手権で銅メダルを獲得し、「スーパーソロ」の世界トップ選手の仲間入りを果たした。

 全日本選手権を九度制し、世界選手権では四度の銀メダル。「レジェンド」が今目指すのが、競技の普及だ。越谷市での体験会には地元のプロバスケットボールチーム、越谷アルファーズの選手も参加した。ポイントガードの鳴海亮(31)は「しっかり重心を下げて打たないと、ボールの勢いに負けてしまう。体幹を鍛える効果があると思う」と興味津々の様子だ。

 競技やトレーニングだけでなく、遊びやレクリエーションとしても裾野が広がってほしいと、疋野は願う。協会理事でスーパーソロ女子の日本記録保持者、石田里美(29)は「高齢者や車いすの方も楽しめます。シッティング・スピードボールを取り入れている福祉施設もあります」とPRする。

 疋野が大いなる夢を語る。「温泉に卓球台が置いてあるように、温泉スピードボールが当たり前にならないかなって。どこの施設にも置いてあって、自由に打ち合って楽しめたら」 (敬称略)

(左から)NPO法人日本スピードボール協会会長の疋野、石田里美理事、男女のシングルス日本チャンピオンの岡林志奈(ゆきな)、大樹夫妻

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<スピードボール> 1961年にエジプトで考案された。シングルスとダブルスの対戦種目、一定時間で打数の多さを競うスーパーソロ、スーパーソロの4種類の打ち方を男女4人で分担するミックスリレーがある。エジプトを中心に中東、欧州、インドなどで盛ん。日本では大会に出場する競技人口は100人程度だが、レクリエーションや生涯スポーツとして愛好者が増えている。

<ひきの・まさと> 全日本スピードボール選手権スーパーソロの部で、2007年〜12年までの6連覇を含め9度の優勝。世界選手権では09、13、14、17年に銀メダル。NPO法人日本スピードボール協会会長。174センチ、64キロ。埼玉県越谷市出身。37歳。

 文と写真・牧田幸夫

 

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