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スポーツのしおり

(6)「土は生きている」 100年の歴史 土と水の物語

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 甲子園球場のグラウンドは夏と春で装いを新たにする。夏は黒く、春は白く―。土の色を変えるのだ。まぶしい夏は球が見やすいように黒土を増やし、雨が多い春は水を吸いやすい白い砂を多くする。比率はそれぞれ6対4。球児たちの舞台は、緻密な計算によって整えられている。

 グラウンド整備を担当する阪神園芸の金沢健児さん(48)は「よく、土は生きていると言いますが、土は生き物という思いはある。だから、季節や気温、時間によってやり方を変えるんです」。例えば、グラウンドに落ちる観客席の影の長さを見て、水をまく量を調節するという。

 金沢さんは「土守(つちもり)」と呼ばれるグラウンドキーパー。いわば、土の職人だ。「伝説の土守」と言われた藤本治一郎さん、辻啓之介さんの後を継ぐ3代目名人。甲子園のグラウンド整備に携わって30年となる。

 まるで作物を育てるように、土を耕し、水をまく。グラウンドは毎年1月に30センチほど掘り起こされ、また埋められる。硬くなった土をほぐし、雨を吸収する軟らかい層を作るためだ。春夏秋冬。水の含み具合に気を配りながら、土を整え続ける。

 夏の全国高校選手権が始まって今年で100年。舞台が甲子園に移ったのは第10回大会からだが、彼らの技にも歴史が宿る。トンボで土をならすにしても、地面の穴を埋めるだけでは不正解。「プレーで動いた土を元に戻してやる意識」と金沢さん。トンボが一人前になるまでには10年かかる。厳しい世界だ。

 だから、グラウンドから見る景色は美しい。マウンドを頂点として、ごくなだらかに内外野へ下っていく。土守はこのわずかな傾斜を感じ取り、球児たちの聖地を作っていく。高校野球は、土と水の物語でもある。

 文・谷野哲郎/写真・市川和宏/デザイン・高橋達郎

 

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