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スポーツのしおり

(9)キャッチボールしよう 「思いやりを投げる」

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 父のことを思い出すとき、なぜか、いつも同じシーンが浮かんでくる。子どものころ、家の前の空き地でキャッチボールをした。真っすぐに投げられず、悔しくて泣く私に父が笑いかける。良い球がいくと、「ナイスボール!」と褒めてくれた。それがうれしくて、何球も投げた。

 家族との思い出を問われると、同じように「キャッチボール」と答える人は多いのではないだろうか。元大リーガーの松井秀喜さんは、父や兄とのボール遊びが野球を始めるきっかけ。「キャッチボールには、いろいろなものが詰まってますから」と話していたのを思い出す。

 実は「Catch Ball」は和製英語。正しくは「Play Catch」というそうだ。Play(遊び)なのに、なぜ、これほど心に残るのか。「キャッチボールは相手の胸に、相手が取りやすいところに投げるでしょう。つまり、思いやりなんです」。松井さんの恩師である星稜高校・山下智茂名誉監督の言葉が胸に落ちた。

 今は禁止の公園も多く、残念ながら、ボールを投げ合う姿をあまり見かけなくなった。だが、親から子へ、誰かから誰かへ。思いやりが行き交う遊びは、いつまでも残っていてほしいと願う。

 例えば、うんと小さい子供にはうんと近くから。大きくなるにつれて、少しずつ、少しずつ離れていく。そんな距離感は家族本来の形とも重なる。

 もうすぐ体育の日。さあ、遊ぼう。外に出て、キャッチボールをしよう。相手のことを見て、投げる。受け止める。ミスをしたら「ごめん」という。ただ、それだけのことがうれしい。あのときなぜ、父が笑っていたのか。今になって分かった気がした。

 文/写真・谷野哲郎 デザイン・高橋達郎

 

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