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スポーツのしおり

(10)「3年先の稽古」 ちゃんこの味が染みる

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 相撲界には「3年先の稽古」という言葉がある。力士の実力は、1カ月や2カ月で身に付くものではない。先を見据えて、じっくり、しっかり体をつくれという意味だ。だから、力士は鍛えて、食べる。お相撲さんは稽古とちゃんこで大きくなる。

 立ち上る湯気と鼻をくすぐる鍋の匂い。東京都内の八角部屋でちゃんこ作りを見学した。この日は鳥肉をキャベツ、シメジ、水菜、油揚げなどと一緒に煮た「ソップ炊き」と言われるもの。ソップはスープの意。しょうゆ味のスープの香りが食欲をそそる。

 「飽きないよう、いろいろな鍋を日替わりで作ります。塩やキムチ、カレーもありますね」とちゃんこ長の北勝剛さん。食事は当番制で力士が自分たちで作るのがルール。特にレシピはなく、調味料も大体の目分量。細かいことを気にしないのも魅力の一つだ。

 八角親方(元横綱北勝海)は「今の子は食べなくなった」と嘆くが、それでもここでは1日10キロ以上の米をたいらげる。ちゃんこは1日2回。ぶつかり、転がされ、泥だらけになって稽古した後、たっぷり食べて体を強くする。

 基礎練習はつらかろう。耐えられないと思う日もあるだろう。ただ、時間をかけなければ、作れないものがある。技術や心構えは毎日の繰り返しで体に染み込んでいく。悩んだときは難しく考えず、おいしいものを食べて、また頑張る。努力とはそんな単純なものでいいのかもしれない。

 稽古を十分に積み、一人前の力士らしくなることを相撲用語で「ちゃんこの味が染みてきた」というのだそうだ。まもなく始まる九州場所。食から始まる基本がここにはある。「たくさん食べる子の方が、やっぱり元気がいいよ」。八角親方の言葉が胸に響く。

 文・谷野哲郎 写真・中西祥子 デザイン・高橋達郎

 

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