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スポーツのしおり

(11)「氷上に刻むもの」 変化こその永遠

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 氷の上に刻まれる軌跡が美しい。フィギュアスケーターの足元を見ると、円やS字の華麗なラインが激しくもしなやかに表現されている。リンクの上の氷には、選手が滑るさまざまな模様が描かれる。

 フィギュアスケートは氷上に「図形」=Figure(フィギュア)を描いて滑走することから、その名が付いた。もともとはハートや8の字など、氷に描く図形の精度を競うスポーツだったが、現在は個性や芸術性を演技で表現するものに質が変わった。

 ソチ五輪金メダリストの羽生結弦選手(ANA)は今、何を表現しようとしているのだろう。11月のNHK杯では突然、SPで4回転ジャンプを2本組み込む構成に変更した。フリーは今季から陰陽師・安倍晴明をテーマにした「和」の振り付けに書き換えた。冒険的な試みだった。

 鬼気迫る表情に思わず息をのんだ。実はこの写真は試合ではなく、前日練習のものだ。この翌日、羽生選手はSPで106・33点、翌々日のフリーで216・07点の新記録を出した。その秘密がこの表情に隠されていると思った。

 人は安定を求める生き物である。変わることは怖い。だが、変わることでしか手に入らないものもある。フィギュアスケートではシーズン中に演技構成を変えることは極めて少ない。「挑戦という形。自分は絶対王者だと言い聞かせていた」。強い決意が世界最高得点を生んだ。

 明治時代の思想家で美術運動家でもある岡倉天心は「変化こそ唯一の永遠である」との言葉を残した。米国の経営学者・ドラッカーは「昨日を捨てよ」と説いた。王者ゆえに変わるという生き方。氷に刻まれるのは、図形だけではない。

 文・谷野哲郎 写真・田中久雄 デザイン・高橋達郎

 

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