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スポーツのしおり

(14)「かけがえのない」 秘めたるは間の心

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 弓道場に心地よいリズムが響く。たん。たん。たん。静寂の中、矢を射る音だけがゆっくりとしたテンポで聞こえる。東北学院大・弓道部一年の高木千緩(19)はこの音を頼りに、今日も弓を引く。

 同校は昨年11月の「全日本学生弓道女子王座決定戦」で優勝した。3人で挑んだ団体戦。決勝で大会新記録となる36射中35本を当て、名門・桜美林大を破った。中でも高木は12射全て的中させ、最優秀選手賞に輝いた。

 大会では28メートル離れた直径36センチの的に当てる。意外にも、的の中心に近いほど点が高いということはない。シンプルに、的に当たった数のみを競うのだ。際立つ潔さはそれゆえに怖さを含む。

 弓道は「立禅」とも呼ばれ、雑念を払う高い集中力が求められる。高木によると、「この競技は7:3くらいで技術よりメンタルが重要。どんなに調子が良くても一瞬、『当たらないかも』と思っただけで崩れていく」。

 失敗が続いたあるとき、高木は友人が矢を射るリズムに同調すると、的を外さないことに気付いた。頭の中で音楽を奏でたときも無心になれた。「リズム」「間」。かけがえのないものをつかんだ瞬間だった。

 的の中心の黒い点を「図星」。松やにで弦を補強する「手ぐすね」。弓道由来の言葉は多い。「かけがえのない」もそう。弓を引くときに着ける鹿革の手袋を「弓懸(ゆがけ)」と呼ぶが、長年使うと体の一部のようになり、替えがきかない大事なものになる。諸説あるようだが、弓道を示す言葉としてしっくりくる。

 心得でも流儀でも、大切なのは自分で気付くこと。かけがえのないものを自分で見つけることができた人は強い。たん。たん。たん。答えは得た。高木は今日も矢を射る音を追いかける。

 文/写真・谷野哲郎 デザイン・高橋達郎

 

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