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スポーツのしおり

(19)「強い者は美しい」

写真

 そこだけ重力がなくなったかのように見えるから不思議だ。

 リオデジャネイロ五輪・体操男子日本代表の内村航平(27)の鉄棒は、倒立しているにもかかわらず、軽やかに体が伸びている。しなやかに、流れるように、静謐(ひつ)ささえ感じる美しさが彼の演技には詰まっている。

 体操ほど、空間を意識的に使う競技はないと思う。回転やひねりに跳躍。複雑で激しい動きを入れながら、広がりや幅をつくっていく。中でも「縦」へのダイナミックな構成は欠かせない要素だ。

 鉄棒の高さは地上から280センチ。気楽に演技ができる高さではない。だが、写真の内村は苦しそうな顔を見せない。鉄棒にそっと手を添え、みやびやかな演技に集中する。ピンと張った足元はいわゆる、動の中の静。日本を象徴する赤が、背景に際立つ。

 内村の基準は「体操を知らない人にも、美しいと感じさせられるかどうか」だという。個人総合で最も金に近いと言われる男は、どこまでも自らの宇宙を追求し続けていくのだろう。

 「強い者は美しい」とは、1928年、アムステルダム五輪の三段跳びで日本人初の金メダリストになった織田幹雄の言葉である。困難や重圧に立ち向かい、強くあろうとする人をたたえているのだが、内村を見ていると、90年近くたっても、スポーツが持つ本質は変わらないのだと知った。

 強く美しい者たちの祭典が、まもなく始まる。

 文・谷野哲郎/写真・安藤由華、共同/デザイン・高橋達郎

 

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