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スポーツのしおり

(27)「眼は遠くを、足は地に」 視線の先に

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 「写真を撮られるの、めっちゃ苦手なんです」。そう照れながらも、カメラに真っすぐな視線を向けた。パラリンピック競泳女子の一ノ瀬メイは、3年後を見据えて練習を繰り返す。

 京都府出身の20歳。英国人の父と日本人の母を持つ。現在は名門・近大の水上競技部に所属し、一般部員と一緒に活動する。朝5時に起き、1日に1万メートルを泳ぎ込むことも少なくない。「自分はまだまだ世界のレベルに達していない」が、厳しい鍛錬を課す理由だ。

 生まれつき右腕が短い。左右で水をかく力が違うので、泳ぎ方を工夫する。どうしても早くなる右腕を体の前で我慢して待つ。リズムでバランスを保つことが大事なのだそうだ。義手を使って懸垂するなど右腕の強化も忘れない。3月の春季記録会では200メートル個人メドレー(SM9)で2分40秒25と自身の持つ日本記録を更新。着実に成長を続けている。

 幼いころから、人と違う反応や扱いを受けてきた。じろじろ見られたり、理由もなく水泳教室に入れなかったり。テーマパークでアトラクションに乗れなかったこともあった。「両手で体を固定できないからだって。腕を隠せば乗れたけど、それは嫌だった」

 やわらかく水をつかむ泳ぎとは違い、彼女の主張は峻烈(しゅんれつ)だ。

 「『障がい者』と『害』を『がい』と書くのは失礼。害だからよくないものだと思っていて、それを(健常者が)平仮名にすることで、自分たちの罪の意識をなくそうとしているように思える」

 「障害は社会がつくるもの。例えば、眼鏡やコンタクトをつけている人はそれがない社会になれば、見えなくなって障害を持つことになる。私は社会に障害を持たされている気がする。腕が短いのは個性なのに」

 思いを伝えたい。行動したい。だから、彼女はメディアに出るのだと言った。

 ずっと大切にしてきた言葉がある。

 「眼は遠くを、足は地に」

 元国連事務次長・明石康氏の言葉だ。高校に入学したころ、記録や世界ランクが停滞し、「このまま伸びないかもと悩んでいた。でも、この言葉を知って、そう決め付けていたのは自分だと気付いた。足元を見ていたらあかん。先を見ていたいと思えた」。高い目標を持ち、一歩ずつ進もうとする彼女の姿勢はここから生まれた。

 昨年はリオパラリンピックに初出場を果たすも、決勝に進むことはできなかった。それでも、一ノ瀬は真っすぐに未来を見つめる。

 「リオは悔しいだけだった。次の東京は絶対にメダルを取りたい」

 文・谷野哲郎/写真・中村千春/デザイン・高橋達郎

 

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