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スポーツのしおり

(28)「変えられるものを変える勇気」 ニーバーの祈り

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 トレーナーを相手に次々と拳を繰り出していく。左フック、左フック、右ストレート。そしてしばらく、動きを止めて、何かに思いを巡らす。ボクシングのロンドン五輪金メダリスト・村田諒太(帝拳)は思考とともに、自分をつくり上げている。

 20日にアッサン・エンダムとの世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王座決定戦に挑む。勝てば日本初の五輪メダリストの世界王者となるが、恬淡(てんたん)としたもの。「結果は神のみぞ知る。ベストを尽くし、可能性を最大限に高められるようにしたい」

 村田は精神面を重視するボクサーで有名だ。メンタルを鍛えるため、哲学や心理学の本を愛読する。例えばフランクルの「夜と霧」やアドラー研究書の「嫌われる勇気」。彼らの言葉に共通するものを探し、戦いに臨む心の準備に役立てるのだそうだ。

 取材の最中にそらんじたのは神学者・ニーバーの言葉。「彼は『ニーバーの祈り』の中で『神よ、変えることのできるものを変えるだけの勇気を我らに与えたまえ。変えることのできないものを受け入れる冷静さを与えたまえ。そして、その二つを見極める知恵を下さい』と説いている。アドラーの『課題の分離』も同じ。結局、今自分に何ができるか。今できることをやればいいと解釈している」

 彼のパンチは肉眼でとらえられないほど、速くて重い。こんなに激しく強い男でも、試合前は迷い、失敗におびえるという。だから、先人の言葉の力を借りて臨む。人の持つ弱さと強さ、ボクシングの奥深さを知った。変えられないことを思い悩むな。「変えられるものを変える勇気」。リングの上の哲学者は言った。

 文・谷野哲郎/写真・武藤健一/デザイン・高橋達郎

 

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