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スポーツのしおり

(32)「未知なるものを恐れない。」 挑む=楽しい

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 「僕は競技者としては不純だと思う」。日本初のプロトレイルランナー、石川弘樹はそう言った。首をかしげる筆者に穏やかな笑みを投げかける。その表情からは不純さのかけらも感じられない。

 トレイルランニングは起伏のある自然の山野を走り、木の根や岩などの障害物を越えていく。海外では100マイル(約160キロ)のレースが人気だ。42歳の石川は日本ではまだ誰も競技を知らなかった22年前から取り組むパイオニア。国内に広く普及させ、いまや競技人口は約20万人となっている。

 日本人が誰も挑戦しない未開のレースを好む。2004年、ロッキー山脈の標高3000メートルがスタート地点の100マイルレースで、高山病になりながら10以上の峠を越えた。08年にはメキシコの山岳地帯80キロレースで、ゴムサンダルを履いて走る伝説の先住民族「ララムリ」に挑んだこともある。

 レースの下調べは一切しない。あえて情報を遮断する。それがこだわり。事前に知識があると興ざめするという。「未知の山の中に飛び込み、どう戦うか。その挑戦が楽しくて仕方ない。何も知らないからこそ新鮮でワクワクする」。本来、競技者は多くの情報を入手し、下見をして、コースに即した練習をする。だが、石川の中では勝利よりも挑戦心が上回る。当然、成績は二の次になってしまう。だから「競技者としては不純」となるわけだ。

 誰もが未知なるものを恐れ、挑むことをためらう。失敗を怖がり、一歩踏み出せない。しかし、石川には躊躇がない。「挑戦ほど楽しいことはない。終わった後の達成感はなかなか得られないでしょう。それに成功とか失敗は本人が判断するもの。僕は何事でも失敗だと思わないようにしている」

 石川にとって「挑む」と「楽しい」は同義語。難解なチャレンジであればあるほど楽しさは増す。そして、動きだした時点ですべてが成功なのだろう。

 文・森合正範/写真提供・石川弘樹/デザイン・高橋達郎

 

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