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スポーツのしおり

(33)「いざ、東京五輪(ふるさと)へ」 最初で最後の勇姿

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 故郷を思う心は皆同じだろう。郷愁。よりどころ。包んでくれるような温かさ。だけど、彼のような思いを抱く人もいる。

 総合馬術で3大会連続五輪出場の大岩義明は地元の声援を背に受けたことがない。2001年に英国へ渡り、現在はドイツが拠点。馬術の本場、欧州で腕を磨く。

 「1964年の東京五輪以降、日本で世界レベルの大会は開かれていない。馬の輸送や日本の競技環境を考えると難しいですよね」。ここで言葉に力が入る。熱い思いがほとばしる。「日本で見せられるのは、僕の人生で2020年の東京五輪が最初で最後なんです」

 勇姿を見せたくても見せられなかった。日本の知人からは「海外で何をやっているの?」と聞かれることもある。寂しい。やるせない。距離以上に故郷を遠く感じた。

 ことしは「3スター」とランク付けされる大会を3度も制した。5月には五輪をしのぐ由緒ある大会で8位に入り、欧州では「快挙」と称賛された。「今は世界と戦える位置にいる。でも、もっと頑張らないと東京はすぐに来てしまう」

 総合馬術は馬場馬術、野外騎乗(クロスカントリー)、障害飛越の3種目を1頭の馬で3日間かけて戦う。その過酷さから「馬術のトライアスロン」と呼ばれ、馬にかかる負担は大きい。大岩の考えは「人馬一体」ではなく「馬人一体」。人より馬を思いやる。

 しかし、この3年だけは「東京五輪でトップ争いする姿を見てほしい」という気持ちが上回る。「一度(競技を)生で見たら、きっと好きになってもらえる。東京があるんで、今は馬を温存する気持ちを少しだけ置いて…。出し惜しみなく、全力でいきます」

 東京で声援を背に走る―。44歳で迎える、人生で一度だけの晴れ舞台。勇姿を見せたい。大歓声の中、走りたい。そして、日本のみんなの期待に応えたい。大岩の原動力。それは故郷への思いにほかならない。

文・森合正範/写真提供・日本馬術連盟/デザイン・高橋達郎

 

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