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スポーツのしおり

(35)輝く未来へ 「心の整え方」

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 四半世紀以上過ぎた今も、この季節になると思い出す。前夜は寝付けず、焦っていた。問題用紙を開いた瞬間、頭が真っ白になる。大学受験の苦い思い出だ。

 アスリートには緊張や重圧がつきまとう。それを克服して力を発揮する。リオデジャネイロ五輪の卓球で二つのメダルを獲得した水谷隼は言う。「夜や試合直前に卓球のことを考えると、ずっと頭に残る。それで多くの失敗をしてきた。だから、いかに平常心を保てるか」。試合前夜は卓球のことを考えない。特別なことは一切せず、普段通り過ごす。あくまで試合は日常の延長線上にある。

 試合前夜に苦労したのはロンドン五輪ボクシング金メダリストで世界王者の村田諒太。プロ転向後は恐怖心と緊張で眠れなかった。ベッドで何度も寝返りを打つ。「『もう眠らなくていいや。みんな試合前はこんなもんだろう。目だけ瞑っておこう』と諦めた。そうしたら、いつの間にか眠っていた」。現状を受け入れる。すると、逆に寝られるというのだから人間は分からない。

 やるべきことをあえて口に出す選手もいる。リオ五輪のバドミントンで銅メダルの奥原希望はコート上でブツブツとつぶやく。「何をやっていいのか分からなくなり、パニックになる時がある。なので、しっかり口を動かして、自分に戦略を言い聞かせる」。言葉にすることで頭の整理ができ、自然と落ち着くという。

 リオ五輪陸上男子400メートルリレー銀メダリストの飯塚翔太は少し変わっている。部屋で本番のユニホームとシューズを身に着け、鏡の前でガッツポーズをする。壁に向かって「ヨッシャー、ありがとうございます」と叫ぶ。勝利者インタビューの練習もこなし、フレーズまで考える。「勝った気分を味わって、いい気分で寝る方がいい」。これは一種のイメージトレーニング。不安になったら、合格した後の生活に思いを巡らしてはどうだろう。

 力を出し切るためには、己をどうコントロールして本番へと導くか。試験が近づき、緊張した時、アスリートの言葉や考え方は参考になるかもしれない。誰もが心を整える。緊張して当たり前。そう思うだけでも、少しは気が楽になる。春はもうそこにいる。

 文・森合正範/写真・武藤健一、今泉慶太、七森裕也/デザイン・高橋達郎

 

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