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スポーツのしおり

(38)「今できることを精いっぱい 頑張りなさい」 花開くために

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 リオデジャネイロで咲いた可憐な花。三宅宏実の笑顔。五輪から2年がたとうとしても、バーベルを抱きしめ、頬ずりするシーンを忘れられない。

 愛くるしい表情でさらりと言った。「練習でも試合でも悪い時がほとんど。90パーセントはうまくいかない。良い時は10パーセントあるかないか」。9割の苦悩と1割の笑顔。重量挙げの2大会連続五輪メダリストは、物事がすんなりいかないのは当たり前だという。

 32歳。競技歴18年。月日を重ねるごとに奥深さを感じる。「きょう練習して、あした結果が出る競技ではない。地道な作業とプロセスがある。しかも、頑張ったからといって、必ず良い結果とは限らない」。流した汗の量と成績はイコールではない。だけど、頑張らねば、継続しなければ絶対に結果は出ない。

 くじけそうになった時、メキシコ五輪銅メダリストの父・義行さんの言葉が心に響く。「今できることを精いっぱい頑張りなさい」。全部やろうとしなくていい。欲張らずに、着実に。目の前のことだけをやり遂げる。

 バーベルを床からゆっくりと肩の位置まで引き上げる。そこから頭上へ差し上げ、両腕をピンと伸ばして静止する。重量挙げの一連の動作はどこか植物が芽を出し、柔らかな双葉を広げ、つぼみから一気に花開く過程と重なる。9割の苦悩。それは地面にしっかりとした根を張る作業。十分な水を吸い、養分を蓄えるためには欠かせない。

 「練習は地味だし、うまくできない中での繰り返し。でも、毎日できることを継続していたら、いつかできるようになる。そう信じてやっています」

 根を広く深く伸ばしていけば、きっと、美しく香り高い笑顔の花が咲く。9割の苦悩と1割の笑顔。大舞台で笑うため。その確率を少しでも上げるため。きょうもまたバーベルを握る。

 文・森合正範/写真・七森祐也、共同/デザイン・高橋達郎

 

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