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【鉄学しましょ】

幻の京成玉ノ井駅 土屋武之さん

写真

 永井荷風の代表作「〓東綺譚(ぼくとうきだん)」の冒頭に近い部分で、主人公が歓楽街の玉の井を訪れたとき、京成電車が往復していた停車場跡の土手に登り、「迷宮(ラビラント)」と荷風が呼んだ複雑怪奇な町を見下ろしている。6月末の夕方のことと作中では記された。この小説が私家版として世に出たのは1937年4月だから、36年初夏の作者の体験が映し出されていると考えられよう。

 ところで、京成は今も墨田区内を走っている。廃止された京成電車とは何なのか。現在、太平洋戦争末期の空襲で壊滅した元の玉の井へ行くのなら、最寄りは東武東向島駅だ。実はこの駅の北側、カラオケ店になっている辺りに、かつて京成玉ノ井駅が存在していたのである。

 路線の名は白鬚(しらひげ)線。京成曳舟−八広間にあった向島駅(廃止)から分岐し、東武を築堤でまたぎ越し、白鬚橋東詰付近にあった白鬚駅まで、わずか1.4キロだけを走っていた。28年の開業だが、あまりに利用客が少なく36年3月1日にあっけなく全廃。今日、痕跡はほとんど残っていない。うたかたの喜びにひたる町を走る電車もまた、ひとときの夢であったのか。

※〓は、さんずいに墨

 

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