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【鉄学しましょ】

中也の「桑名の駅」 土屋武之さん

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 1935年8月、郷里の山口から上京の途にあった詩人中原中也は、豪雨で大阪と京都間が不通となったため、乗っていた列車が関西本線を迂回(うかい)するという、おそらく彼にとって初めての体験をする。夜更けに桑名へ到着。カエルの合唱が響き渡り、駅長に「焼きはまぐりの桑名とはここか」と尋ね、そうだと笑われた。風がない、じっとり蒸し暑い夏の夜の田園風景が思い浮かぶ。

 その時の心情を記した詩が「桑名の駅」だ。現在、JR桑名駅=写真=1番ホームに詩碑がある。この駅は1895年開業だが、江戸時代の城下町からは離れた町外れに建設された。中也が通りかかったころには田畑も周囲に多く残っていた。

 当時は既に伊勢電気鉄道、養老鉄道など、後に近畿日本鉄道に統合される最新式の電気鉄道がいくつも乗り入れてきており、駅前からは路面電車も出ていた(1944年廃止)。実はモダンなターミナル駅だったのだけれど、詩人の目には初めて見る、何も知らない寂しい土地としか映らなかったのだろう。

 記憶に残る唯一?の桑名とのつながりも駅長に軽くあしらわれ、大変に心細い思いをしたことが、詩には表れている。

 

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