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【鉄学しましょ】

立つ風の爽やかさ 土屋武之さん

写真

 宮崎駿監督の映画から「風立ちぬ」は軽井沢の物語というイメージが強いが、堀辰雄の小説が舞台とした冷涼な高原は、八ケ岳の麓だ。登場する停車場は富士見=写真。1932年の小海(こうみ)線延伸まで、ここが日本一高い場所にある鉄道駅(標高955.2m)だった。

 「私」と婚約者の節子が乗った汽車の場面では「何度となく山を攀(よ)じのぼったり、深い渓谷に沿って走ったり、又(また)それから急に打ち展(ひら)けた葡萄(ぶどう)畑の多い台地を長いことかかって横切ったり…」と、中央線の車窓が描写されている。

 甲府盆地を過ぎ、諏訪へ向けて長い山越えに差し掛かると、堀の筆致は「漸(や)っと山岳地帯へと果てしのないような、執拗(しつよう)な登攀(とうはん)をつづけ出した…」とさえる。今も「あずさ」が上り勾配を進むありさまは、「執拗」とも感じられるだろう。

 風立ちぬの発表は36年。戦前は不治の病とされていた結核用のサナトリウムが富士見にあり、所長が医師であり作家でもあった縁から、堀など多くの文人が入所した。現在の富士見高原病院である。清潔な空気の中で療養することが、当時の結核への限られた対処だった。特急を降りホームで深呼吸すると、爽やかさが東京とはまったく違う。

 

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