東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > タイムライン > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【タイムライン】

雇用+消費+文化→スポーツを産業に いわきFCの挑戦

いわきFCのクラブ運営について語る大倉智氏=東京都内で

写真

 東日本大震災の被災地、福島県いわき市で活動するサッカーのアマチュアクラブ「いわきFC」が、独自のクラブ運営で注目を集めている。Jリーグ入りを目指し、米国の人気スポーツブランド「アンダーアーマー」を日本で展開する株式会社ドームが運営を後押し。こうしたサプライヤー(供給元)が販売だけでなく、クラブ運営に主体的に関わるのは珍しい。クラブの将来ビジョンは「いわき市を東北一の都市にする」。スポーツの経済的な価値を最大限に引き出し、被災地を復興から成長へ。いわきFCの代表取締役で元Jリーガーの大倉智氏(47)が描くプランの鍵は「スポーツの産業化」だ。 (小杉敏之)

 いわきFCの拠点は、ドームがいわき市(人口35万人)の郊外に造った物流センター「ドームいわきベース」(DIB)。ドームが東日本大震災の支援物資を同市に運び届けたのが縁で、建設に100億円を投資した。

 昨春から稼働したDIBは社員として働く選手を含め、地元に450人の雇用を創出した。大倉氏は「ここがまず、大きな意味での地域貢献」と説明。総面積3万7800坪を誇るDIBの広大な敷地内では現在、いわきFCの新設グラウンド(人工芝)の横で、クラブハウスの建設工事が進む。今年からはサッカースクールも開校する。

 一般的なクラブ運営との違いは、クラブハウスが商業施設化される点。貸店舗を設け、アンダーアーマーのアウトレットショップや英会話スクール、地元の食材を使った飲食店などが入る計画で、地域住民らのコミュニティーづくりにも一役買う。将来はさらに大きな複合施設として、いわき市中心部にコンサートなども開催できるサッカー専用スタジアムを造る構想を持つ。

いわきFCが拠点を置くドームの物流センターで働く選手=福島県いわき市で

写真

 「非日常の熱狂空間を感じてほしい。それをマネタイズ(収益化)し、利益は子供たちの将来のために投資する。そんなお金の循環がスポーツ産業」。クラブの存在が雇用、人口、消費、税収の増加となって地域経済を活性化し、都市の魅力と規模が膨らんでいく未来図を描いている。

 いわきFCとドームの関係は、2015年までJ1湘南(今季はJ2)の社長を務めた大倉氏の苦悩を抜きに語れない。「地域密着」をうたうJリーグの各クラブは、PRを兼ねたイベントなどで地域のスポーツ振興に貢献する。ただ、湘南は同じ神奈川県内にJリーグの6クラブが競合。営業的に「なかなかお金を生み出せなかった」。資金力のある浦和や名古屋と違い、市民クラブの予算では「なるべく選手の人件費に使わざるを得ない。頭打ちだった」という。

 これに追い打ちをかけるのが非情なJ1の規定。下位3クラブのすべてが毎年、入れ替え戦もなしにJ2に降格する。目先の勝利に固執する戦いは監督や選手を萎縮させ、スポーツ本来の魅力を損ねるような危うさを覚えた。

クラブハウスの完成イメージ(いわきFC提供)

写真

 大倉氏には「観客に感動、勇気、希望を提供するのが興行の本質」との持論がある。現役引退後、スポーツマネジメントを学んだ欧州留学で、ドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンの幹部から聞いた。「興行は負け方が大切なんだ」と。その価値観をJリーグでは形にしづらかった。

 湘南での仕事にジレンマを抱えていたころ、新天地をくれたのがドームだった。経営トップの安田秀一氏は学生時代からの友人で、欧米のスポーツビジネスに精通していた。いわき市にDIBを建設するのに合わせ「スポーツを通じて社会を豊かに」という企業理念と、大倉氏の考えを融合させたサッカークラブを旗揚げ。一歩ずつ理想に近づきながら、新たな運営モデルを国内に広く提唱するつもりだ。

◆選手=社員 能力向上と生活をサポート

 いわきFCはもともと福島県2部リーグに所属する既存のクラブで、運営権を譲り受けたドームが2015年末に新たな運営会社を設立。大倉氏が代表取締役に就いた。昨年はドームから約1億4000万円の運営費が投下され、主にスタッフの人件費に充てた。

 新チームは選手のトライアウトなどで編成。2人の外国人選手を含む30選手で臨み、監督は元オランダ代表FWでJ1広島でプレー経験があるハウストラ氏(昨季限りで退任)が務めた。

昨年11月に完成したいわきFCのグラウンドと建設中のクラブハウス(いわきFC提供)

写真

 Jリーグ参入に向けて始動した昨季は、実質「8部」に相当する県2部リーグを全勝で制し、天皇杯の県予選決勝にも進出。J3福島に延長戦の末に敗れたが、既にプロに匹敵する実力を備える。このまま今季以降も一つずつリーグを上がれば、あと7シーズンでJ1にたどり着く。

 選手はドーム子会社の社員で、いわきFCに出向。午前中に練習し、午後からクラブの拠点となるDIBで物流業務に従事する。練習では「日本のフィジカルスタンダードを変える」という考えの下、週3日の筋力トレーニングを実施。アスリートの能力開発も手がけるドームのノウハウで競技力向上を図っている。

 選手のウエアや用具なども、ドームが扱う米国の人気ブランド「アンダーアーマー」の製品を提供。DIBの施設内にある食堂では、ドームのサプリメント事業の知見を生かしたアスリート用の食事と栄養補助食品が与えられる。

 <大倉智(おおくら・さとし)> 1969年5月22日、神奈川県生まれ。東京・暁星高から早大に進み、日立製作所(現J1柏)に入社。社員選手を経てプロに転向、FWとして活躍した。引退後はスペインの大学でスポーツマネジメントを学び、C大阪や湘南でチーム強化を担当。湘南では強化部長、ゼネラルマネジャーを歴任し、14年から2年、社長を務めた。

 

この記事を印刷する

PR情報