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【タイムライン】

手本は山本昌さん 元中日投手、辻孟彦・日体大コーチに2人の師

プロ初先発し、ナゴヤドームのマウンドで力投する辻さん=2013年7月

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 今秋の明治神宮野球大会、大学の部で37年ぶり2度目の日本一に輝いた日体大。その陰には3年前からコーチとして指導する元プロ野球選手の存在があった。元中日の投手、辻孟彦コーチ(28)。2人の師の教えと、プロで学んだ指導法や練習方法などのノウハウを生かしている。 (森合正範)

 プロ生活わずか3年。1軍では13試合登板に終わり、結果を残せなかった。だが、学んだことは計り知れない。辻コーチは「中日での経験が生きています。プロでやってきたから分かることがあるし、それを大学野球に取り入れていますから」と自信をのぞかせた。

 指導の手本とするのは元中日の山本昌さん。49歳で最年長勝利を挙げ、通算219勝を誇る大先輩だ。山本さんがキャッチボールを100回したら、80回はパートナーに指名されるなど、教えてもらう機会が多かったという。

 「技術面でも一緒に考えてくれるし、命令でなく『こうじゃないかな』『やってみようか』と選手に合った提案をしてくれる。すごくやる気になりました。それと言葉の伝え方、声掛けがうまい。大先輩なのに会話が多かった」

 たとえ高い技術があっても、伝える能力がなければコーチとは言えない。選手をやる気にさせるのも一つの役目だ。山本さんに倣い、学生との会話を大切に、個性を伸ばす指導を心掛けている。

 山本さんから口酸っぱく言われたのが「ピッチングよりもキャッチボールが大切。この時にあらゆることを考えてうまくなる」。だから、初めて大学の練習を見た時、投手陣が雑談しながらキャッチボールをする姿は衝撃だった。

 「仲がいいのではなく、なれ合いだと思った。プロは18歳でも自覚があるし、1人で考えて練習する。そういう選手がうまくなる。指示待ちではだめ。なので、プロ(の意識)に近づけてがらっと変えました」

中日の現役時代、沖縄キャンプで山本昌さんから投球フォームを教わる辻さん(右)=2014年2月、読谷球場で

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 投手陣と一対一で面接し、長所や短所、必要な練習メニューを話し合った。自ら考え、実行できる選手へ。自立を促すため、個別の練習時間を増やしていった。

 もう1人の師はプロの世界へ導いた石井昭男スカウト(現打撃コーチ)。日体大のコーチに就任する際、「大学野球だけでなく、プロも見なさい。少年野球も中学生も高校生も見なさい。だからこそ分かることがたくさんある」とアドバイスされた。

 視野を広げるため、休日を利用して地域で小中学生を指導し「どうすれば分かりやすく教えられるか」を考える。また、昨年2月は中日の沖縄キャンプを訪れ、練習を見学した。「やはりプロはレベルが高い。ウチのエースと浅尾(拓也)さんでは同じ140キロでも球の質が全然違う。投内連係でもそう。学生にもう一段階上があると教えられる」

 プロでの経験と2人の師の教えは、辻コーチにしかない大きな財産。「元プロだからみんなが信頼してくれる部分もある。少しでも学生たちに還元していきたいですね」。そう言って、教え子たちを包み込むような温かな表情でほほ笑んだ。

◆日本一貢献の二枚看板「分かりやすい」「指導が専門的」

 コーチ就任と同時期に入学したのが「二枚看板」と呼ばれる松本航(兵庫・明石商高)と東妻勇輔(和歌山・智弁和歌山高)の3年生右腕。秋の神宮大会は計3試合で1失点。圧倒的な投手力で日本一に貢献した。

 松本は「辻コーチは上のレベルを知っているので、プロの考え方、トレーニング方法を分かりやすく教えてくれる」と感謝する。東妻は「年齢が近いので冗談を言ったり、コーチだけど親しみやすい」と話し、「指導は専門的。フォームを矯正するのではなく、トレーニングを重ねると結果としてフォームが良くなっている。こんなコーチはいないと思う」と信頼を寄せた。

 辻コーチは中日に入団した時点で達成感があったという。自らの経験を教訓に、プロを目指す2人にはより高いレベルを求めている。たとえ打者を抑えても、配球に納得できなければ話し合う。「『プロに行く』ではだめ。『プロで活躍する』。そう考えて野球をしよう」と伝えている。

10月の首都大学リーグの東海大戦で、松本航投手にアドバイスする辻孟彦コーチ(左)=埼玉・熊谷運動公園野球場で

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◆取材後記「現役より今が楽しい」

 3年ぶりの再会だった。私は中日担当として、辻コーチが戦力外通告を受けた日も話を聞いた。「4万人の前で投げたのは幸せだったけど、あのころは自分のことで精いっぱいでした」とポツリ。

 現在とプロの時、どちらが楽しいか尋ねると「今です!」と即答した。「自分が投げた試合以上に学生のビデオを見ています。『こうやったらもっとうまくなるかな』と考える。それが好きなんです。指導者の方が向いてますかね?」。そう言って笑った。

 プロ野球選手のセカンドキャリアは難しい。一歩を踏み出せず、やりがいを見いだせない人も多いだろう。

 辻コーチは「今後は大学院でコーチングを学びたい。日体大を常勝にしたいんです」と目を輝かせ、夢を語った。第二の人生で羽ばたく生き生きとした表情に、こちらもうれしくなってきた。 (森合)

<つじ・たけひこ> 京都外大西高から日体大へ。4年春に首都リーグ記録の10勝で優勝に貢献。2011年10月、中日からドラフト4位で指名される。プロ3年で先発1試合を含む13試合に登板、0勝0敗、防御率4.58。14年10月に戦力外通告され、15年に日体大野球部のコーチに就任。京都市出身。28歳。

 

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