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【タイムライン】

モーグル原大智 どん底からの「銅」 「引退覚悟」解けた呪縛

W杯秋田たざわ湖大会の男子モーグル決勝でエアを決める原大智=たざわ湖スキー場で

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 日本勢として冬季史上最多13個のメダルを獲得した平昌五輪。ワールドカップ(W杯)でも経験のない初の表彰台となる銅メダルに輝いたフリースタイルスキー・モーグル男子の原大智(日大)には、五輪直前の決意が糸口となっていた。五輪前は不振続きでどん底にいた21歳。自身初の五輪の結果次第では潔く競技さえやめようと腹をくくると、大舞台を楽しむ余裕が生まれたという。 (上條憲也)

 メダリストとして凱旋(がいせん)試合となった今月3日のW杯秋田たざわ湖大会。帰国後の練習不足に、五輪前から抱えていた右もも痛も重なり、表彰台に遠く及ばない13位に終わった原は「五輪で力を使い果たしてしまった。期待してもらえるのはうれしいが、申し訳ない」。そう悔しさを表しながら「やっぱり金メダルが欲しいという気持ちはある」と、4年後を見据えて再び歩みだした。

 平昌五輪は、競技人生のすべてをかけた大会だった。五輪代表に決まった1月の会見。「この五輪は僕のモーグル人生の分かれ道になる」と口にしていた。その時想定した「分かれ道」とは何だったのか。メダリストとして再び競技者の道を歩む今、真意を問うとこう答えた。「(五輪で結果がでなければ)モーグルをやめていた。自分に限界を感じていたから。そういう覚悟で臨んだ五輪だった」

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 本場カナダで技術を磨き、17歳でW杯デビュー。同世代の堀島行真(中京大)と注目を分け合ってきた。だがこの1年はどん底だった。昨季は採点要素のうち、エアの不振で低迷。起死回生で臨んだ昨年3月の世界選手権(スペイン)は試合直前に体調を崩す不運に見舞われた。その大会では堀島が日本男子初の2冠で時の人に。「成績を出していない自分が悪いんだけど、本当につらかった」

原が中学生のころに書き写したという「男の修行」

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 今季W杯も開幕戦から予選落ち。夏場の特訓も結果につながらない焦りの中、「諦めがついた」のは、今年1月に米ユタ州ディアバレーであった2戦だ。平昌五輪と同じ審判団のため五輪の採点傾向が見えるという2戦で、初日に遠藤尚(忍建設)が2位、翌日は堀島が4位に入った。原は不調を自覚していたとはいえ、いずれも予選敗退。

 「何をやってもだめ。俺は評価されないんだなと思った。五輪はだれしもが出られる舞台じゃない。ならば五輪まではとにかく頑張って静かにやめていこうと思った」。そう考えると楽になった。五輪では「魔物がすむ」と言われる重圧を感じなかった。表彰台をかけた最終滑走もスタート直前に笑みが浮かぶ。「魔物というのは実力を持っている人が感じること。ぼくは実力も全然なかった。五輪に行くための魔物には会っていたのかもしれないけど」

 「悔しい気持ちをバネにしていかないと勝てないんだなと思った」としみじみと振り返る原。東京・渋谷の自宅には、中学時代に書き写したという一枚の書がある。「苦しいこともあるだろう(中略)じっとこらえてゆくのが男の修行である」。旧海軍の山本五十六連合艦隊司令長官の名言が「当時は好きだった」と笑う原にとって、期せずしてこの1年は「男の修行」だったのかもしれない。原は「そうかもしれないですね」とまた笑った。

◆苦手エア グラブで活路

W杯秋田たざわ湖大会を終えた四方元幾(左)と原大智=東京都内で

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 平昌五輪で銅メダルを獲得したモーグル男子の原が、苦手とするエアに活路を見いだしたのが、空中で板をつかむ「グラブ」だ。平昌ではエアの組み合わせで難易度を下げながら、いずれも板をつかむことで加点した。

 「格好いいから」と数年前からグラブの練習をしていたというが、ワールドカップ(W杯)をともに戦う全日本チームの四方元幾(愛知工大)が昨季、試合で高得点をたたきだしたことなどを機に「点数が伸びるのでは」と思ったという。エアの得意な四方は昨年のW杯カルガリー大会の予選で、グラブを入れた第2エアだけで審判2人の採点が9.6点と9.4点(それぞれ10点満点)となり、高得点化の傾向をチーム内でも意識するようになっていた。

 原は伸身のひねり技の練習もしながら、伸び悩みもあって今季序盤のW杯中国大会でグラブの組み合わせを決断。銅メダルの瞬間をテレビで見届けた四方は「見事に五輪に間に合わせた。ライバルだったけど一緒に戦った気がする」と喜び、原に祝福メールを送った。ただグラブの採点は今後厳格化される可能性もあるといい、どこまで得点につながるか。原は「進化が求められるなら新たな挑戦をしないといけない」とさらなる進化の必要性に目を向ける。 

 

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