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【ふくしま便り】

原発批判の旗手 安斎育郎さん 「学者の責任」福島通う

放射線量の高い地面に座り込んで原因を探る安斎育郎さん=福島県南相馬市で

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 安斎育郎さん(74)は東日本大震災直後から毎月、京都から福島に来ている。安斎さんは東大原子力工学科の一期生。今は立命館大名誉教授で、国際平和ミュージアム名誉館長だ。若いときから原発政策を批判し続けてきた。先月末、福島県南相馬市での活動に同行した。

 時折、冷たい小雨が降る寒い日だったが、安斎さんは赤いおしゃれな服を着て、笑顔で迎えてくれた。仲間は桂川秀嗣・東邦大名誉教授、佐藤理(おさむ)・福島学院大教授ら。昨年末、特定避難勧奨地点から解除された同市深野地区を調査した。まだ放射線量の高い場所があり、帰還していない人が多い。

 民家に着くと、安斎さんは先頭に立って、線量計を片手に歩いて行く。線量計からは「ピピピーッ」と電子音が鳴り続ける。

 「五マイクロ」と安斎さんが言う。毎時五マイクロシーベルト。年間一ミリシーベルト以内の被ばくの目安となる〇・二三マイクロシーベルトの二十倍以上だ。

 場所は雨どいの下の地面。「こういう所が高いんだ」と言いながら辺りを見回して「そこのコンクリートの板を(地面の上に)載せて」と住民にアドバイスする。厚さ三センチほどの板を置くと一・七マイクロシーベルトまで下がった。

 地元で「いぐね」と呼ばれる屋敷林は、無残に伐採されていた。安斎さんは跡地に入って、素手で土や枯れ葉を触る。まるで放射性物質の有無を確かめているようだ。

 その時、「フキノトウだ」と安斎さん。「食べたいね」と住民に問い掛ける。「南相馬のフキノトウから基準を超える、一キロあたり一一〇ベクレルのセシウムが出た、と新聞に出たばかりです。誰も食べないから、どうぞ」と答えが返ってきた。安斎さんは数個採ると、ビニール袋に入れた。

 調査後、仮設住宅の一角にある集会所で説明会を開いた。安斎さんは「力及ばず、こういう事態になり、無念の思い。できる限り福島に来て、より安全な生活のために努力したい」とあいさつした。

 出席者の一人が「マツタケはセシウムが一キロあたり三〇〇〇ベクレル以上だが、十グラムなら三〇ベクレルだ。食べても大丈夫か」と質問した。マツタケ採りの名人という。安斎さんは「私なら食べます」と答えた。

 その話を聞いていた男性が「フキノトウの天ぷらを四年ぶりに食べた。おいしかった」と小さい声で言う。妻だろうか、隣の女性が「本当においしかったね」と笑顔で応えた。

 復興とは、こういう笑顔が増えることだと思った。 (福島駐在編集委員)

大きく曲がったスプーンを右手に持って「だまされてはいけない」と話す安斎さん=福島市で

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◆安斎さん講演要旨 

 安斎育郎さんは先月七日、福島市で開かれた「はなネット友の会」総会で講演した。得意のマジックを演じながら「人はなぜ、だまされるのか」を語った。講演の要旨を紹介する。

  ◇ 

 私は東京・亀戸生まれだが、父は(福島県二本松市)杉田、母は三春町の生まれです。戦争中、二本松市に縁故疎開し、四歳から九歳まで過ごした。

 二〇一一年四月十六日、福島に来た。立ち入り禁止の一週間前だった。頼まれて、浪江町にある牛小屋で放射線量を測ったら、毎時一〇〇マイクロシーベルトだった。これをどうすればいいのかを考えるのが、放射線を専門としている者の責任だと思った。

 今、保育園や個人のお宅にうかがって、どうしたら被ばくを減らせるか、測定をし、提言をしている。依頼があれば、誠実に応えるので、遠慮なく言ってください。

 学生時代、放射線を当ててマウスの死に方を観察する実験があった。死ぬと、解剖した。放射線は目に見えなくて生命を奪うもの、と感じた。それで放射線健康管理学を専門にした。

 政府の原発政策はきわめてずさんだと、一九六七年ごろから感じ、原発批判をするようになった。原発は今、五十四基もあるが、三重県・芦浜、和歌山県の複数の計画、高知県・窪川などは地元の人と一緒に建設計画をつぶした。国家に比べれば微力だが、無力ではない。

 人はなぜ、こりもせずにだまされるのか。(スプーン曲げを実演した後)超能力ではなく、なぜと考えてほしい。これは、てこの原理を使っただけ。金属は堅いという思い込みがあるのでだまされる。知識不足、欲得ずく、思い込みが、だましの道に誘われる三つの入り口だ。

 テレビの時代劇、暴れん坊将軍、水戸黄門、大岡越前に共通点がある。わかりますか。「お上に任せておけば大丈夫」という物語で、主人公が権力と武力で悪人を制圧する。町衆が一致団結して問題を解決するというドラマはない。

 では、どうすればいいのか。科学的認識を土台とし、問題解決の方法は、人道主義でやる。人任せではなく、具体的に自分がかかわろうと考えることだ。

 

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