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【ふくしま便り】

被ばく牛調査途中報告 甲状腺肥大、牛白血病も

避難区域の中で放牧飼育されている牛たち=福島県大熊町で

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 福島県の原発被災地に取り残された牛に関する調査が最終段階を迎えている。血液検査や解剖などを実施した結果、被ばく牛の中に甲状腺の肥大や牛白血病の感染拡大などが確認されており、こうした症状が内部被ばくと因果関係を持つか否かを慎重に見極めるのが、今後の作業になるという。放射能汚染が大型の哺乳動物に与える影響を追跡した研究は世界に例がなく、人の健康問題へも大きな示唆を与える可能性がある。

 研究チームは北里大、岩手大などの研究者による「原発事故被災動物と環境研究会」。伊藤伸彦・北里大名誉教授が代表を務める。原発事故から二年後の二〇一三年三月から三年半にわたって避難区域に入り、安楽死処分を逃れて飼育されている牛の調査を実施してきた。当初は二百六十頭を対象としていたが、現在は自然減で百三十四頭になっている。

 調査は、大きく分けて二本の柱から成る。まず牛が飼育されている環境にどれほどの放射性物質が存在し、牛の体内にどれほど取り込まれているかを計測する。放牧場の空間線量、土壌線量を測り、牛の首にも線量計を着けた。さらに死んだ牛を解剖し、取り込まれた放射性セシウムの量などを調べた。

 この結果、放射性セシウムは、食肉の部位でいうサーロイン、ヒレ、モモなどの筋肉に集中することがわかった。たとえば一三年の数字で、ある牛のモモには一キロあたり八五〇ベクレル以上の高密度で放射性セシウムがあった。食品衛生法の基準値である一キロあたり一〇〇ベクレルを大幅に上回る数値だ。

 ところが輸入した乾燥牧草など、汚染されていないエサを与えると、この数値は劇的に下がった。二週間〜一カ月で半減し、当初の予想より二倍近く速かった。

 季節による変化もみられ、五月と十二月を比べると五月の方が数値が高かった。これは牧場内で育った牧草を牛が食べてしまった結果とみている。

 「避難区域以外で飼われている家畜については、汚染されたエサを食べさせないのが大切」と伊藤名誉教授は話す。

 こうした放射性物質が影響を与えているか否かは保留するとして、牛の体にいくつかの異変が認められた。

 岡田啓司・岩手大教授によると、調査した牛のほぼすべてが牛白血病に感染していた。牛白血病は血液の中のリンパ球のがんで、原因はアブを媒介とするウイルス。感染しても発症するとは限らず、国内の牛の四割ほどがウイルスを保持している。人間に感染することはない。

 しかし避難区域の牛の感染率の高さは特別だという。

 岡田教授は「放牧という飼育方法では感染を防ぎようがない。それが最大の原因」と話すが、一方で免疫機能が低下した可能性も捨てきれないとする。

 また、甲状腺が肥大している牛も二頭、発見された。百頭以上を調べた結果で高い確率とはいえないが、「原因は不明」(岡田教授)という。気になるところだ。

 皮膚に白斑が出た牛は二十頭ほどもいる。しかし白斑牛は、放射線量が高い牧場で現れず、むしろ低い農場によく現れる。「ストレス過多などの要因も考えられる」という。

 被ばくと健康被害については、対象が人間であっても「因果関係はわからない」とされることが多い。しかし、わからないから存在しないという切り捨て方をすれば、疑念が膨らむばかりだ。異変の事例を積み上げていく作業が大切だろう。

 研究グループは来年三月をめどに、これまでの成果を論文にまとめることにしている。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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