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【ふくしま便り】

読まれてこそ本は生きる 私設図書館「ふくしま本の森」

雪に覆われた本の森図書館の前で、遠藤委員長(右)と松本館長=福島県会津坂下町で=福島県湯川村で

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 雪深い会津坂下(ばんげ)町の山里に、私設図書館「ふくしま本の森」がある。運営方法がとにかくユニークだ。どんな希少本でも貸出時の登録は不用。期限も冊数制限もなしで、また貸しもOK。「本は読まれてこそ生きる。どんどん外に出ていってほしい」とプロジェクト実行委員長の遠藤由美子さん(67)は話す。運営するスタッフも本好きのボランティアばかり。採算などハナから度外視で、本への愛で成り立っている奇跡のような図書館を紹介したい。

 会津坂下町は会津盆地のほぼ中央に位置する人口一万六千人ほどの小さな町だ。「ふくしま本の森」は、この町の廃園になった幼稚園の建物を使って、二〇一五年九月にオープンした。

 大雪の中を出掛けていくと、遠藤さんが駐車場の雪かきで大わらわだった。館長の松本幹生さん(66)もほどなくしてやって来た。図書館の中を見せてもらうと、約四万冊の本が、整然と分類されて並んでいる。最初に目に付くのは「お帰りなさいの本棚」だ。

 この図書館で本を借りるには氏名と簡単な住所だけをカードに記載する。返却期限はなく、冊数の制限もない。返却するときは、この本棚に置くだけ。

 「ここは本が泊まる港。本は旅に出て、たくさんの人に読んでもらって帰ってくるのがいい。そうして本の魅力を伝えるのが、この図書館の役目です」と遠藤さんが説明した。

 二〇一一年三月十一日に東北地方を襲った大地震と大津波。衣食住に関する救援物資が全国から集まる中で、「心の救済も必要」と本の提供を呼びかけたのが民俗学者の赤坂憲雄さん(福島県立博物館長)だった。後方支援基地であった岩手県遠野市に三十万冊もの本が集まった。大部分は被災地に配ったが、約四万冊が残り、置き場に困った。名乗り出て、この本を引き取ったのが遠藤さんだった。

 遠藤さんは生まれ育った奥会津地方の三島町で、二十年前から出版社を営んできた。雑誌に「世界で一番山奥の出版社」と紹介されながらも、奥会津の文化や風土に関わる書籍を世に送り出してきた。そんな本の虫にとって、四万冊もの本が廃棄される事態は耐え難かった。

 トラック八台分の本が福島に来た。元幼稚園の建物を見つけ出し、運び込んだが、書架がない。ボランティアが大工仕事をし、司書資格者の指導で整理分類をし、開館にこぎ着けた。

 実は松本さんは来館者の第一号だった。地元出身の松本さんは若い頃から東京の古本屋街を歩き回る古書マニア。

 「ここに来て腰が抜けるほど驚きましたよ。探していた貴重な本が無造作に並んでいる。私にとっては宝の山です」

 有頂天で通ううちに館長に任命された。

 今、力を入れているのは「街かど図書館」運動。公共施設、飲食店など、要望のある場所に本を提供し、ミニ図書館にしてもらう。現時点で設置数は県内全域の三十七カ所に上る。

 長く読まれ続ける絵本の名作を集め、子どもたちに薦める活動も展開中だ。

 「若者が絵本を感慨深そうに見ていました。子供のころに読んだ絵本ばかりで、これを与えてくれた母親の愛情が初めて理解できたそうです。本には、そんな力があります。原発事故のあった福島県の復興はまだ道が遠い。それでも生きていく子どもたちに、本の力が届いたらいいなと思います」

 石油ストーブが燃える部屋で、遠藤さんは、そう話した。

  ×   ×   ×

 「ふくしま本の森」図書館は雪のため、三月までは日曜だけオープン。問い合わせは、同図書館=電0242(85)7680=へ。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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