東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 東日本大震災 > ふくしま便り > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【ふくしま便り】

数増え 感染症の危険も 帰還者を待ち受ける野生動物

被災地で捕獲されたアライグマ

写真

 東日本大震災から六年を迎えるこの春、原発事故による避難指示が浪江町、富岡町、飯舘村の一部と川俣町山木屋地区で解除となる。各自治体では避難住民の帰還を促しているが、インフラの修復、放射線量の低減など課題は山積みだ。特に深刻なのが、増えすぎたイノシシ、アライグマなど野生動物の被害であるという。農作物を荒らされるほかに、感染症の心配もある。各自治体は駆除に躍起だが、動物の数が多すぎて焼け石に水の状態だ。

 福島大学の奥田圭特任助教らは一昨年六月から被災地の野生動物の生息状況調査を始めた。

 エリアを(1)夜間は人の立ち入りができない居住制限区域(2)津波で被害を受けた地域(3)避難区域外の水田−の三つに分け、二十四台の自動撮影カメラで動物の出現状況を観察。捕獲した動物に衛星利用測位システム(GPS)を付け、行動を調べた。

 その結果、水田に比べ、居住制限区域や津波被災地は動物の出現頻度が五倍も多かった。

 特に居住制限区域は、イノシシが他のエリアの約九倍、アライグマやハクビシンは数十倍という過密状態だった。

 「放置された民家が、特にアライグマの格好のすみかとなっている。庭に残されたカキ、ウメ、ユズといった果樹も多く、彼らにとっては天国のような場所。いくつかの家を渡り歩いたり、ハクビシンと仲良く同居しているアライグマもいた。それほどに生息密度が高い」と奥田助教は指摘する。

 アライグマは凶暴で人を攻撃することもあるが、それ以上に恐ろしいのは狂犬病、アライグマカイチュウ、疥癬(かいせん)などの感染症を持っている可能性だという。こうした病気はいずれも人間にうつる。狂犬病は一九五七年を最後に日本では発症例がないが、ペットとして移入されたアライグマが菌を保持している恐れはあるという。

 「かみつかれなくとも、乾燥したフンを口から吸い込んだりして感染することもある。動物が入り込んだ家に帰還するときは入念な消毒が不可欠。できれば家を取り壊して再建した方がいい」と警鐘を鳴らす。

 三月三十一日に町内の居住制限区域の避難指示解除を目指す浪江町では、現在、約二千人が帰町の準備を進めている。そうした住民の中からも「家に動物が入ったと思うと帰る気がしなくなる」と苦情が出ている。

 こうした事態を受けて、町では一昨年十月に猟友会の会員などで有害鳥獣捕獲隊を結成。週に二回のペースで九人が避難先から通い、わなを仕掛けて動物を捕る作業を続けてきた。

 この結果、これまでに捕獲した動物の数は、イノシシ五百三十四頭、アライグマ六十一頭、タヌキ四十八頭、ハクビシン十四頭、ニホンザル六頭など。

 「それでも動物の目撃情報は増えている。とても追いつかない」と担当の町産業振興課の担当者は悲鳴を上げる。狂犬病に対処するにはワクチンを用意するしかないが、そこまで手が回っていないという。

 同町で帰還準備のために宿泊を重ねる男性(66)は、猟友会に所属し、震災前には毎年百頭ほどのイノシシを捕獲していたという。

 「食べるために動物を捕る。それがこの地域の伝統だったんだ。ところが原発事故以来、イノシシも汚染されて食べられなくなった。捕らなくなればイノシシは増える。夕方四時を過ぎれば、平気で町の中に出てくる。草むらに潜んでいるから、女性や子どもは危ない。草刈りが欠かせない」と話した。

 人の暮らしは長い年月で培われた自然との折り合いの上に成り立ってきた。一度、崩れたバランスを取り戻すのは容易ではない。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

この記事を印刷する

PR情報



ピックアップ
Recommended by