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【ふくしま便り】

阿武隈川の遊漁未解禁 続く魚汚染、豊かな川どこへ

渓流の宝石、ヤマメ=福島県北塩原村で

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 復興に向けて拍車がかかる福島県。しかし目を凝らすと、いまだに残る原発事故の陰を見ることになる。県民の母なる川、阿武隈川の遊漁はこの春も解禁にはならなかった。ヤマメ、イワナなどの渓流魚からセシウムなどの放射性物質が相変わらず検出されるためだ。古里の川で魚を追う本当の春はまだ遠い。

 福島市にある阿武隈川漁業協同組合の事務所を訪ねると、堀江清志事務局長が電話の応対に追われていた。

 「ほとんどが、なぜ解禁しないのかってお叱りの電話ばかりですよ。『老後の楽しみをどうしてくれるんだ』と涙声の人もいる。しかし、こればかりは私たちが判断できることではない。国や県が『よし』と言わなければ、業務は再開できないんです」と疲れた様子で話した。

 阿武隈川は、奥羽山脈と阿武隈山地に挟まれた中通り地方を貫くように流れている。県内の長さは約百五十キロ。支流の数は二百本にも及び、かつては経済の中心である郡山市、県庁所在地の福島市を水運で結んだ大動脈だった。また人々の生活に潤いをもたらした川でもあった。

 震災前、釣りシーズンが始まる四月一日が訪れると、渓流ざおをかついだ太公望がいそいそと水辺に向かった。ぬるんだ流れの中から宝石のような魚を釣り上げて歓声を上げた。

 だが同漁協は今年二月二十二日の理事会で、今シーズンも漁業と遊漁は休止と決定。今月三日に約四千人の組合員に向けて通知を出した。また川辺には「釣り自粛」の看板を出した。

 休止の理由は、原発事故から六年の今でも、川魚から放射性物質が基準を超えて検出され、国の原子力災害対策本部が発令した出荷制限指示が解除にならないからだ。

 具体的には、昨年四匹のヤマメから食品衛生法の基準である一キロ当たり一〇〇ベクレルを超えるセシウム137が検出された。これによりアユ、イワナ、ウグイ、コイ、フナも国の出荷制限指示は継続となった。

 「二〇一一年七月ごろは、ヤマメで一キロ当たり七〇〇〜一〇〇〇ベクレルを検出した。昨年は最大値で同一七〇ベクレルほどだったが、ここからゼロに持っていくまでが遠い」と県水産課では話す。

 川の場合、職業として漁をして魚を販売している人はごくわずかだが、釣り人に遊漁券を販売する行為も出荷とみなされるという。解除の要件は「安定的に基準値を下回ること」だ。

阿武隈川の遊漁の休止決定を伝える看板=福島市で

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 同課では「解除に向けて努力を続けたい」と話すが、この「努力」とは、サンプリング(採捕)を重ねて、「不検出」の実績を積み上げること。川の放射線量を下げる方法はなく、時間の経過を待つしかない。

 福島大学環境放射能研究所の和田敏裕准教授は、県内の河川・湖沼に生息する淡水魚のモニタリング検査を続けてきた。和田准教授は、魚が体内に蓄えたセシウム137は餌にする虫から取り込んだとみている。

 原発直近の帰還困難区域にある請戸(うけど)川に汚染されていないヤマメを放すと、一カ月で一キロ当たり一〇〇〇ベクレルもの値に達したという。

 「阿武隈川のセシウムの濃度は段違いに低く、今後も改善が期待できる。しかし、いつになったら解禁できると予測できるものではない」と話す。

 福島県には、阿武隈川漁協のほかに二十四の内水面漁協がある。このうち国の出荷制限が一部解除になったのは、会津地方の阿賀川、只見川など数えるほどだ。浜通りと呼ばれる阿武隈山地の東側については、帰還困難区域内の川が多く、サンプリング調査さえ進んでいない。

 豊かな自然の恵みに包まれて暮らしてきた県民にとって、野遊びを禁じられた喪失感は計り知れないほど大きい。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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