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【ふくしま便り】

土湯温泉の新たな挑戦 「温泉エビ」で夢を釣る

「元気アップつちゆ」でオニテナガエビの養殖を担当する佐久間さん(右)と秋山さん=福島市土湯温泉町で

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 原発事故の被害から再生エネルギー利用の拠点として立ち上がろうとする福島市の土湯温泉の取り組みを約一年前に本欄で取り上げた。その土湯温泉に新しい名物が誕生しそうだ。これが、なんと「温泉エビ」である。温泉発電の余熱を使ってエビを育て、釣り堀をつくって観光客を呼ぶ。地元の人々が思い描いた夢が実を結びつつある。

 新緑の土湯温泉を訪ねた。福島市の中心部から車で約三十分。深い谷の両側に温泉旅館が並び、残雪が輝く吾妻連峰の山々が背後にそびえる。谷川沿いに二キロほど山の奥へと進むとゲートがあり、硫黄の匂いが立ち込める源泉地域となる。

 株式会社「元気アップつちゆ」(加藤勝一社長)の佐久間富雄さん(53)が出迎えてくれた。川岸に今年三月に完成した三棟のビニールハウスが立ち、中に水槽が並んでいる。

 「どうです? 大きいでしょう」。佐久間さんが指さしたのが、オニテナガエビだった。

 オニテナガエビは東南アジア原産の淡水エビ。体長は二八センチ程度になり、食べるとおいしい。「元気アップつちゆ」では、昨年七月から、この養殖に取り組んでいる。

 なぜ温泉でエビなのか。

 原発事故は、開湯千年の温泉街に大きなダメージを与えた。毎年六十万人を数えた観光客は離れ、老舗の旅館がいくつも店じまいを余儀なくされた。

 温泉組合などは、起死回生の策として再生可能エネルギーを活用した観光復興とまちづくりを決議。「元気アップつちゆ」を設立し、温泉熱を利用したバイナリー発電と渓流を利用した小水力発電を事業の柱とした。

 バイナリー発電は、三六度という低温で沸騰する媒体を温泉熱で温め、タービンを回す。このとき二〇度ほどに温められた清潔な水が大量に生まれる。温水の利用法を模索する中で、たどり着いたのがエビの養殖だったという。エビは旅館などに提供して名物として料理に使ってもらうほか、釣り堀をつくって温泉客にエビを釣った時の引き味を楽しんでもらう計画もしている。

 佐久間さんは福島市出身。大手電機メーカーに勤務していたが、子供のころからなじんだ土湯温泉を活性化したいと転職した。「電気の知識を買われたかと思ったら、エビの養殖と聞いて驚いた。しかし、やってみたらエビもかわいいものです」と養殖の技術を猛勉強中だ。

 今月から若いメンバーも加わった。千葉県出身の秋山亨仁(ゆきひと)さん(27)。福島市の地域おこし協力隊員に採用された。東京農大で水産を学び、卒業後はゲームソフト会社で営業職をしていたが、「知識を生かしたい」と、この事業の隊員募集に応募した。「打ち込める仕事を探していたら、ここにあった。来たからには福島の力になりたい」と話す。

 「元気アップつちゆ」の目標は、こうした再生可能エネルギーを巡る事業を展開しながら、温泉街一帯を環境問題に関する「学びの場」とすることだという。このために発電機を見学する目的で融雪装置付きの展望デッキもつくった。昨年一年間で全国から訪れた見学者は約百六十組、二千五百人に達した。

 近い将来に「エコツーリズムといえば土湯温泉」と位置付けられる日が来るだろう。

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 見学などの問い合わせは、「元気アップつちゆ」=電024(594)5037=へ。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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