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【ふくしま便り】

農地の放射能汚染対策置き去り 国「被ばく管理は自己責任」

ブドウ畑の放射能濃度を測る遠藤さん(左)ら。原発事故から6年が過ぎても、驚くほど高い数値が出る=福島市で

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 原発事故と農業といえば農作物の安全性に関心が集中しがちだ。もちろん、それは大切な話だが、農業生産者が被るかもしれない健康被害にも細心の注意が払われるべきだろう。しかし被災地・福島県では、この部分が置き去りにされてきた。原発労働者なら被ばく管理が義務付けられるほどの高線量区域で、農民が日々、汗を流している現実がある。この実態は、ほとんど公にされていない。

 遠藤茂さん(62)は福島市郊外でブドウ畑七十アールを経営している。地表から一・五メートルほどにつくられたブドウ棚には、まだ熟していない緑色の房が垂れている。ブドウは雨を嫌うため、棚全体をビニールで覆ってやるなど手がかかる。ほぼ毎日、畑に出てきて面倒を見る。

 福島県農民運動連合会(農民連)は、二〇一四年度から遠藤さんの畑の放射能表面濃度を測定し続けてきた。

 一四年度はセシウム134、同137を合わせて一平方メートル当たり四二万九六〇〇ベクレルだった。

 事故から六年が過ぎた今年五月にも、同二二万七六〇〇ベクレルもの値が検出された。

 原発や病院など放射線を扱う施設には、無用な被ばくを防ぐために立ち入り制限などをする「放射線管理区域」が設定される。この区域の設定基準は同四万ベクレル。遠藤さんの畑の数値は、実に放射線管理区域の五倍を超えている。

 「原発事故の直後、必死になって木を洗浄した。そのおかげか売り物のブドウから基準値を超える放射性物質が検出されたことはない。でも洗い落としたセシウムは地面に落ちてたまったままだ。ここで仕事をしていて本当に大丈夫なのかと不安になる。今のところ体調の変化はないが、いい気持ちはしない。孫にも畑には入るなといっている」と遠藤さんは話す。

 畑の汚染を世の中に知らせれば、福島県の農産物が再びイメージ悪化の荒波にさらされる危険もある。それでも告発するのは強い思いがあるからだ。

 「農地は子や孫に受け継がれていく。汚染され、うやむやのまま泣き寝入りしたといわれたら死んでもやりきれない」

 県農民連では一六年四月と五月に、県内の果樹園百六十二カ所を計測した。このうち百六十一カ所で、同四万ベクレルを超える値が出たという。会長の根本敬さん(59)らは、こうしたデータを基に、何度も国に悲惨な現場の実態を訴えてきた。

 だが話はかみ合わない。

 厚生労働省の電離放射線労働者健康対策室によると、農業法人などに雇用された労働者の場合は、「除染電離放射能障害防止規則」(二〇一一年十二月発令)に従って、雇用主に定期的な健康診断や被ばく状況の届け出などの義務が生じる。

 しかし、福島県の農業生産者の99%を占める自営農家の場合、雇用者がいないので労働者と位置付けられず、厚労省の所管ではないという。

 「被ばく防止のためのガイドラインはあり、対策を提案していますが、誰がそれを実施するのかといえば、ご自分でやっていただくしかない」と同省の担当者。農林水産省の生産資材対策室の担当者も「ガイドラインを活用していただくしかない」。

 根本さんはこう話す。

 「事故で農地を汚されても、農民は自己責任で働くしかないという。こんなバカな話はない。国は、きめ細かな汚染マップ作りをし、農民の被ばくの実態を把握するべきだ。その上で、福島県が農業をする上で大きなハンディを背負う地域になったという事実を認め、救済策を探さなければいけない。事実を事実として認める。その覚悟が今、国に求められている」 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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