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【ふくしま便り】

和平さんが愛した山村 南会津・前沢集落に「立松和平文庫」

茅葺き屋根の立松和平文庫

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 作家の立松和平さんが六十二歳の若さで二〇一〇年二月に亡くなってから七年半がたつ。旅と農民を愛した和平さんは、とりわけ福島県南会津町の茅葺(かやぶ)き曲がり家(や)の集落、前沢(まえざわ)集落がお気に入りで、よく通った。今、集落には和平さんの全著作や映像資料を集めた「立松和平文庫」がある。風の音、鳥の声だけを聞きながら、一日、和平ワールドに浸ることができる。

 文庫を運営しているのは小勝政一(こかつまさいち)さん(59)。旧舘岩(たていわ)村の役場勤めをしていた三十数年前、取材で訪れた和平さんと意気投合し、家族ぐるみの付き合いが始まった。和平さんが晩年に書いた戯曲「黄金の森」には、戊辰戦争にかり出された日光の猟師、「政一」が登場する。モデルとなったのが、狩猟を趣味とする小勝さんであるといわれる。

 二年前に役場を退職すると、自宅を改装し、和平さんから贈られた本や生原稿などの資料、遺品、テレビ出演したときの映像などを公開することにした。

 「和平さんの本を一人でもたくさんの人に開いてもらいたい。それだけの気持ちなんだよ」と小勝さんは話した。

 それにしても文庫がある前沢集落の風景には驚かされる。

 舘岩川に面したなだらかな斜面に十一軒の茅葺き屋根の家が並ぶ。どの家もLの形をした曲がり家で昭和四十年代までは、農耕用の馬を飼い、人と馬が同じ屋根の下で暮らしていた。標高約七百メートルの高地で、日本有数の豪雪地帯でもある。長い冬を過ごすための知恵が詰まった家だ。

 素朴な薬師堂、水車、水場などが点在し、畑仕事をする老夫婦の姿がある。大部分の住民の名字は「小勝」で、固い結束で茅葺き屋根を守ってきた。

立松さんの写真と小勝さん=いずれも福島県南会津町で

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 一九八八年に風致地区に指定され、以来、見学者は入場料三百円を払う。だが土産物店などはなく、観光地という雰囲気はまるでない。和平さんが愛したのも、そんな日本の山村の原風景だった。

 和平さんの作品の中で、小勝さんが最も好きなのは「おじいさんの机」という題の絵本。

 都会に引っ越した少年の元へ、田舎に残った祖父から不思議な机が送られてくる。引き出しを開けると、懐かしい山里の畑が広がり、祖父が「こっちへ来い」と手招きしていた。慣れない生活に疲れると、少年は引き出しの中の別世界で遊ぶ。

 小勝さんも和平さんの東京の自宅に仕事机を送ったことがある。厚いトチの一枚板を天板にした大きな机だ。

 「トチの香りに包まれていつでも山の世界に浸れる」と和平さんは喜んでいたという。代わりに、それまで使っていた古い机を送ってきた。文庫の一角に置かれたその机は、天板がゆがみ、壊れかけている。九〇年代、盗作の指摘を受けるなどして心身を擦り減らした作家の姿と重なってみえる。

 文庫では、予約制で郷土料理を食すこともできる。連絡先は小勝さん=電090(8928)2223=へ。 (福島特別支局長・坂本充孝)

 

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