東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 東日本大震災 > ふくしま便り > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【ふくしま便り】

いわきにNPO開設のクリニック  患者の不安に向き合う 

「早期発見、早期フォローが医療の基本。小さなことでも相談を」と話す藤田院長=福島県いわき市のたらちねクリニックで

写真

 東京電力福島第一原発事故の直後から、被災地の放射線量の調査などをしてきた認定NPO法人「いわき放射能市民測定室たらちね」(福島県いわき市)が今年六月、いわき市小名浜に診療所「たらちねクリニック」を開設した。NPO法人が診療所を設けるのは全国を見回しても珍しいケースだ。なぜ、クリニックは必要だったのか。

 福島県民は「いわきは太陽の町だ」と誇らしげに話す。たしかに海辺の町、いわき市の陽光は明るく、風はかすかに潮の香りを含んでいる。中でも福島第一原発から南へ約五十五キロの小名浜は漁業の町の雰囲気がひときわ濃い。「たらちねクリニック」も漁港につながる道沿いのビルの三階にある。

 診療開始は六月一日。常勤医の藤田操院長(55)のほか非常勤医が二人、協力医が数人いて、内科、小児科を運営、保険診療に対応する。甲状腺の超音波検査器、ホルモン測定器、内部被ばくを測るホールボディーカウンター(WBC)もある。

 力を入れているのが「子どもドック」だ。WBC測定、尿中セシウム測定、血液検査、超音波による甲状腺検査、心のケアなどのメニューがあり、無料で受けることができる。

 藤田院長は「親は、子どもの体の正確なデータを知ることで無用の心配から解放されてストレスを避けられる。心のケアでは、健康や生活についての悩みを相談してほしい」と話す。

 ところで、どのようにしてクリニックは誕生したのか。

 母体である「いわき放射能市民測定室たらちね」は、原発事故の半年後の二〇一一年十一月からいわき市周辺の放射線量測定などを始めた。一三年三月には、子どもを中心に被ばくの影響を調べる検診をスタート。これまでに九千人以上が検診を受けたという。

 福島県では、事故当時に十八歳以下だった県民を対象とした甲状腺検査などの県民健康調査を実施している。これに満足できず、検診に足を運んだ母親が大勢いたということだ。

 「県民健康調査は二年に一回。その間に症状が進行してしまうこともある。また、画像データなどは親であっても煩雑な手続きを経ないと公開してくれない。何より医師と面談する機会が非常に少ない。情報不足で混乱してしまう母親が多かったのです」と測定室事務局長の鈴木薫さん(51)は話す。

 鈴木さんらは医療機関との連携の必要性を痛感。寄付と助成金で約二千万円の資金をつくり、医師を探した。

 藤田院長は一二年から福島県平田村や子どもの保養先である沖縄県で内科診療に当たった。その藤田院長が要請を快諾したことで構想は実現した。

 実際のところ、福島県の子どもは原発事故により、どれほどの危険にさらされているのか。日本学術会議は今月、放射性物質の総放出量はチェルノブイリ事故の約七分の一で、県民の被ばく線量もはるかに少ないなどとする報告書をまとめた。

 こうしたデータを踏まえた上で藤田院長は、こう話す。

 「データをどう受け止めるかは患者の気持ち次第。体の不調を訴える人に『放射線とは関係ない』と一方的に話しても、納得できない人はいる。逆に医師が正面から取り組んでいると感じた人は落ち着くでしょう。きめ細かなコミュニケーションを取ることこそが、このクリニックの目的です」

 たらちねクリニックは、無料子どもドックを継続するための寄付も募っている。連絡は測定室=電0246(92)2526=へ。

  (福島特別支局長・坂本充孝)

 

この記事を印刷する

PR情報